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11. それぞれの成長


「ジュゴン戦闘不能! 1対1、挑戦者が並びました!」
――ハロー、ここはチョウジジム。床が氷漬けになっていたり天井から氷柱がぶら下がっていたりする、極寒の地だ。そして現在あたしはパーカー1枚羽織っただけでここに来たことを後悔しながらも健気にジム戦の真っ最中だ。……寒くなんてないよ、これは武者震いだ。
今聞こえてきたアナウンスからもわかるように、相手のジムリーダー……ヤナギさんのジュゴンがたった今倒れたところで、対するうちのレアコイルはダメージひとつ受けることなくぴんぴんした状態でそこにいる。……まあそうだよな、こいつはこの場に出てまだ10万ボルトを撃つことしかしていない。

今回のジム戦で最初にバトルフィールドに立ったのは格闘タイプを持つヘラクロス。ジュゴン相手に健闘したものの、あと1歩で力尽きてしまった。
やはり格闘タイプの技が瓦割り止まりというのがネックで、それにまだ虫タイプの技に関しては全く覚えていない。どちらもまだ特訓の最中で習得に至っていないから仕方がないと言えばそうなんだけれど……。
それでもあいつがジュゴンに与えたダメージは相当のもので、その結果レアコイルは無傷のまま次のバトルに進めるというわけだ。それにヘラクロス自身悔しがってはいたものの落ち込んではいなかった、きっと今回の負けを活かしてまた強くなろうと気持ちを新たにしていることだろう。
そして、次はレアコイルの頑張りどころだ。
「レアコイル、次も頼むよ!」
……わかっているのやらいないのやら、相変わらずうようよ浮かんでいるだけのレアコイルに苦笑する。バトルに関しては信用しているけれど、やはり多少は心配してしまったりもする。
「……パルシェン、行こう」
そうこうしている間にヤナギさんが次のポケモンを繰り出してきた。渋いその見た目のまま、かっこいいおじいさんだ。
一面氷漬けのバトルフィールドに降り立ったパルシェンは頑丈そうな殻の中で不敵な笑みを湛えている。……ん? パルシェンって中身の黒い奴が本体なんだっけ?
まあそんなことは今はいい、とにかくここでパルシェンが出て来てくれたのはこちらにとって好都合だ。先程のジュゴンと同じタイプ、またレアコイルの活躍で蹴散らしてやるぜ!
「レアコイル、10万ボルト!」
そう意気揚々と叫び、レアコイルが間髪入れずにパルシェン目掛けて電撃をお見舞いする。身体の周りにくっついているたくさんのU字磁石、そのそれぞれから生み出された電撃はレアコイルの眼前で合わさってどんどん大きくなり、それを相手に放つんだからそれはもう電気ショックとは比べ物にならない。
その10万ボルトはパルシェンに直撃、一撃で倒すとまではいかなくても相当な威力のはず…………そう思いながらパルシェンの様子を確認すると。
「……き、効いてない!?」
一旦閉じられていた殻を開いたパルシェンの顔は、この場に出てきたときと同じように笑ったままだった。
おかしい、今の10万ボルトを受けてそんなに平気でいられるなんて……! 確かに当たった、当たったのに!
「ふむ、なかなか見事な10万ボルトよなあ」
ハッとしてその声の主、ヤナギさんに目を向けた。表情は変えないまま口元に手を当てて何か考え込んでいる様子だ。
「何やら不思議そうな顔をしておるな……そうだな、その疑問に答えてやろう。私のパルシェンの殻の頑丈さは他とは別格、並大抵な攻撃などなんてことはない……そういうことだ」
「そんな……そんなのあり!?」
嘘だろ、『守る』や『見切り』をしたんならまあわかる、けどそういうことじゃなくて単純に殻の強度が段違いってことかよ……!?
まさかの理由にこの寒い中握り締めた手のひらの中がじんわりと湿ってくる。けれど逆に言えば、あたしたちがそれだけのレベルにまで到達しようとしているということだ。きついけれど、そもそもこれがジムの役割というものだろう。ただ力比べをするんじゃない……挑戦者の力量を見極める、そしてあたしたちは今、見極められている最中だ!
「パルシェン、氷の上を滑りながら氷柱張りだ!」
再び拳を握り直しているところでヤナギさんの指示が飛ぶ。氷に覆われたバトルフィールドをものすごいスピードで滑りながらレアコイルに向かって尖った氷が飛ばされる。……ああ、こんな技ってあったっけ! 氷タイプとか以前に結構尖ってて危ないんだけど! それでも空中にいたレアコイルは素早くその場を離れてなんとか凌いでいる、けれど球数が多くて全部は避け切れない。レアコイルの鋼の体を以てしても、数で攻められると少々きつい。
所々に元のバトルフィールドの地面が見える以外はほとんど氷におおわれているここで自由に動けるのは、やはり氷タイプくらいのものだ。パルシェンはその硬い殻から生えるごついトゲを足に見立てって自由自在に動き回る。この氷タイプ贔屓の地形にはヘラクロスも苦戦させられたばかりだ。レアコイルは空中に浮いているからその動きについて行くのは容易いけれど、10万ボルトが効かないこの状況では果たしてそれが意味があるものなのかどうか。
「ちっ……レアコイル、このまま氷柱張り避けつつこっちはソニックブーム!」
こんな面倒な状況の中だとしてもやることは変わらない、それにこちらに全く手がないわけでもなかった。
ソニックブームは衝撃波。直接殻の中に攻撃することはできないけれど、殻にあたったその衝撃は振動として中に伝わるはずだ。……ほら、ソニックブームを受けてパルシェンの動きが乱れた。
……まどろっこしいけれど、今はちまちまやっていかないといけない。これだけ盤石な守りを持った相手なんだ、タイミングを……それこそ一撃で相手を仕留められるような一瞬を見つけるまでは。
空中を動き回るレアコイル、氷上を動き回るパルシェン。ポケモン同士というよりは戦闘機同士にも見える、とんだ長期戦が幕を開けてしまった。

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