◇ 天馬くんとはんぶんこ






 晩秋の夕暮れは短い。もう冬と呼んでもいいのではないかと思われる今の時期、あっという間に太陽は落ち、暗くなった藍色の夜空には綺麗な星々がきらめいている。日が暮れると急に寒くなるような気がして、剣城はぶるりと身を震わせた。もう吐く息が白い。

「急に寒くなったよね」
「そうだな」

 マフラーに鼻先を埋めて天馬が云った。学ランの背中に着込んだ黄色いパーカーのフードが垂れる。学ランの中に着込むことが出来る天馬と違い、剣城の改造制服は防寒に適さない。寒がりな剣城は早々に上にコートを羽織っていた。手袋をした手をコートのポケットへ突っ込んで、枯れ葉を踏みつけながら歩く。

「もう冬だね〜。剣城は冬好き?」
「寒いから好きじゃない」
「剣城、暑がりなのに寒いのもダメなの?」
「暑いのよりはマシってくらいだ」

 他愛ない話題を投げてくる天馬に素っ気ない返事をする。寒いのも暑いのも嫌いというのはよくあることだと思うのだが、天馬は不思議そうにしている。

「でも、おれもあんまり好きじゃない」

 同調して恨めしげに空を見上げる天馬。解りやすい態度に剣城は微かに口元を緩める。

「どうせサッカーあんまり出来ないからだろ」

 日が落ちるのが早いから外で遊ぶ時間は夏と比べて極端に短くなる。雷門は屋内グラウンドもあれば、第二グラウンドにも照明があるので暗くなっても練習が出来るが、それでも最終下校時間という決まりごとには逆らえず、部活の時間も短縮される。つまり、サッカーが出来ない。サッカー馬鹿の天馬にはさぞ辛いことだろう。

「え、何で解ったの!?」
「俺もサッカー出来ないのは辛いしな」

 目を丸くして驚く天馬に剣城は苦笑した。昔、もう帰らないとと手を引っ張る優一にもっとサッカーしたいと駄々をこねたことを思い出す。
 そっか、だよね!剣城もサッカー好きだもんね!と納得いったように天馬は笑って、そして前方にある看板を見て、ふと立ち止まった。

「あ、ねえ剣城。コンビニ寄っていい?」
「ああ」

 河川敷駅前にある小さなコンビニは学校帰りの雷門生のお馴染みの店だ。明るい店内に足を踏み入れて、すぐにするおでんのにおいに剣城の腹はくうと鳴った。帰ったら今日は母親が夕飯を作ってくれているのは解っているのだけれど、欲求にあらがえない。
 しばらく店内を散策して(天馬は結構コンビニの新しい商品が好きだ)、天馬はあんまんをひとつ買っていた。剣城も肉まんをひとつ買う。

「ねえねえつるぎ」
「ほら」

 コンビニを出て、話しかけてくる天馬が云い出す前に湯気の立つ肉まんを半分に割って差し出す。天馬は驚いた顔をして、でも嬉しそうに自分のあんまんの半分を剣城に渡した。

「はんぶんこ」

 照れたようにはにかむ天馬の顔が好きだ。こうして何かを半分こすることが天馬曰く「こいびと」っぽいらしい。そういう些細なやりとりをとても大事そうにする天馬を剣城は愛しく思う。日常の端々に幸福を感じる。

「何か、冬もいいね」
「……?」
「剣城と一緒ならきっと冬でも毎日しあわせだから。冬も好きになれそう」

 唐突な発言に疑問符を浮かべる剣城に天馬は少し頬を赤らめながら柔らかく微笑んだ。恥ずかしいセリフに剣城は無言で天馬にもらったあんまんをかじって、それを奥歯で噛んで飲み下してから、そっと小さな声で返す。

「俺もだ」

 天馬がきらきらと澄んだ空の星みたいに嬉しそうに笑う。口の中に残る甘さはあんまんのものだけではない気がした。








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