◇ 白竜くんとミサンガ






「それ……まだつけていたのか」

 長ズボンの裾からちらりと覗いたものに白竜は目をまるく見開いた。秋の午後、初めて剣城の家を訪れて緊張しながら手を握って、恥ずかしさから思わず下を向いた瞬間のことだった。
 少し薄汚れた青と白には見覚えがある。シンプルな編み方なのにほつれがあって、きつく編んだところと緩く編んだところででこぼこしているそれは白竜が決勝戦へ挑む前の剣城に向けて手渡したミサンガだ。

「ん? …ああ、これか。まだ切れないからな」

 剣城は何気ない素振りで右足に結わえられたミサンガを見やった。三ヶ月以上経ってさすがに汚れてはいるものの、思ったよりも丈夫だったらしいミサンガは切れる様子は無い。

「願い事はもう叶ってるんだけどな」
「まあそうだろうな。ホーリーロードは優勝したし、フィフスセクターは解散していつだって本当のサッカーが出来るようになった」

 ぼそりと呟くように云う剣城に白竜はこのミサンガを送った当時を思い返して頷いた。あの頃の剣城の願い事、それは雷門のホーリーロード優勝、引いては天馬の云う「本当のサッカー」を取り戻すことしか無いと白竜は思っていた。白竜がミサンガを渡したのも、決勝へ向かう剣城を応援したかったからに他ならない。聖堂山が自分達以上の強敵とは思わなかったけれど、だからこそこんなところでライバルである剣城に負けて欲しくなかった。激励に行こうとは元々考えていたが、ふとシュウが天馬にミサンガを渡していたことを思い出し、自分もプレゼントしようと思い立ったのだ。女々しいことしてるななんて、隣で青銅や帆田に突っ込まれながら白竜自ら編んだのが昨日のことのように感じられる。
 あれから三ヶ月。中学サッカーは変わった。今はもう浮かない顔でボールを蹴る者は誰もいない。それもこれも雷門の優勝が大きなきっかけだった。

「……そういう意味じゃないんだが」
「…? 違うことを願ったのか?」

 しみじみと三ヶ月前の記憶を辿っている白竜を横目にちらりと見て、剣城はミサンガを見下ろし、小さな声でぼやく。普段なら聞こえないそれをすぐ隣にいるが故に捉えてしまった白竜はきょとんとした顔で首を傾げた。剣城があの頃、ミサンガにかける願い事はサッカーしか無い気がする。それとも最愛の兄である優一のことを願ったのだろうか?

「じゃあ何を願ったんだ?」
「それは……ないしょだ」

 気になって仕方が無くなってじっと剣城の金色の目を見つめ問いかける白竜に剣城はそっぽを向いて唇を尖らせた。それ以降、うんともすんとも云わなくなった剣城に白竜は首を捻るばかりだ。薄っすらと赤くなった頬はあからさまに剣城の感情を示していたが、懸命に剣城の願い事を考えている白竜が気付くはずも無い。

「白竜、せっかく二人きりなのに何もしないのか」
「するっ! するぞ!!」

 うんうん唸って考え込む白竜の繋いだままの手を持ち上げ、頬に押し当てて挑発的に笑う剣城。金色の目が秋の早い夕暮れを映してさざめいているのが妙に色っぽく思えて、触れる肌の温かさと共に白竜の頭を沸騰させる。そのままの衝動で細い身体をカーペットの上に押し倒すと、剣城の両腕がそっと首に回され引き寄せられた。そうして白竜は促されるがまま、剣城の笑みの形に綻んだ唇にそっとキスをする。






(願い事三つ)
(ホーリーロードで優勝出来ますように)
(兄さんの足が治りますように)
(そして、)
(――― あいつが、俺の気持ちに気付きますように)








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