※サンプルは場面ごとで繋がってはいません





◇ きみというひかり






「つーるぎっ」
「……松風、つめたい」
 ふいに後ろから声が聞こえたかと思うと、日に焼けた手のひらが視界を塞いだ。オレンジ色の夕陽が真っ赤な血潮を透かして目の前が赤く染まる。そして同時に感じた冷たさに剣城は冷静な声で抗議をした。子どもみたいないたずらをした張本人は剣城の反応に少し不満気に唇を尖らせていたが、すぐに今の状況を思い出したらしく眉を下げて微笑む。
「遅くなってごめんね」
「いや、別にそんなに待ってない」
 そもそも剣城が河川敷で足を止めていたのは、一緒に帰ろうと約束した天馬が途中で部室に忘れ物をしたと云って引き返したからだった。「すぐ取ってくるからちょっと待ってて」という声に返事をする間もなくそよかぜステップで駆けていった天馬に剣城は溜息を吐きながらも待っていたのだ。
「そうだ、これお詫び」
「……アイス?」
「うん。半分こしよ」
 いそいそと手に提げたコンビニ袋の中から取り出したそれを掲げて天馬は楽しそうに弾んだ声で云った。大抵の店で売っている真ん中で半分に分けて食べるチューブ型の氷菓子だ。パッケージを開けると中のアイスを半分に割って、片方を剣城に差し出してくる。受け取ると暑い夏には心地好いひんやりとした冷気を感じて、さっきの天馬の手の冷たさはこれの所為かと剣城は今更悟った。
「実は、こういうの憧れてたんだあ」
 照れたようにはにかんでアイスに吸い付く天馬に剣城も同じようにアイスを口にした。ミルクコーヒーの甘い味が口の中に広がって、咽喉を冷やしていく。天馬は心底嬉しそうににこにこと笑いながら、剣城の隣に並んで歩き始めた。
「こういうのって?」
 余りにも楽しそうにはしゃいでいる天馬に剣城は何気なくそう問いかけた。天馬はきょとんと目を丸くして少し躊躇うように視線を伏せてから、思い切ったように口を開いた。
「…えっと、…こいびと、とアイス半分こするってこと」
 えへへ、とはにかむ天馬のしぐさにこっちの方が恥ずかしくなって剣城は顔を背けた。急に熱くなる頬に冷めないかとアイスを吸い上げたが効果はまるで無い。そんな剣城の反応にアイスを口にくわえたまま、天馬はこてんと首を傾げた。
「剣城は無い? そういうの」
「……無いな」
 そもそも、自分が誰かを好きになれるなんて想像もしなかった。ましてや、こんな風に「恋人」と呼べるような存在が出来るなんて。天馬に恋をしていると気付いたときも、絶対に叶わないものだと諦めていたから、こんな風に隣を歩いていることが夢みたいだ。そう考えると何だかこの時間がとてつもなくいとおしいもののように感じて、剣城はふと足を止めた。
「松風」
「そうだ、剣城それ!」
 無意識にぽろっと口から飛び出たそれにいきなり勢いよくツッコミを入れられて、剣城は目をぱちぱちと瞬かせた。
「何だよ」
「松風って。ずっと云おうと思ってたんだよ。なあ、もう天馬って呼んでくれない?」
 きょとんと不思議そうにする剣城に天馬はツッコミの理由を説明する。云われてみて、剣城はそういえば、と思った。決勝戦のあのとき、興奮のままについ天馬と名前で呼んでしまった。が、冷静になって考えてみたら今までずっと名字だった訳で、今更名前で呼ぶには結構な気力が必要で。意識しなかったら出てくるのは相変わらず名字の方だった。それが天馬には不満らしい。
愛らしく小首を傾げて聞いてくる天馬に剣城は眉を顰める。こういうときの天馬は自分の見せ方をよく知っている、と思うのは剣城の錯覚だろうか。恐らく天然なのだろうけれど、これに剣城は何度も敗北し、結果的に云うことを聞く羽目になっていた。
「・・・・・・てんま」
「・・・・・・っっ!!」
 夏の夕暮れの空気を胸いっぱいに吸って、それから吐き出すようにして名前を呼んだ。何気ない風を装ったはずの声は思ったよりもずっと剣城の心を鏡のように映し出す。滲む甘さに天馬の顔が一瞬でバラ色に染まった。




 ◇ ◇ ◇




「長嶺が自殺未遂起こしたって話、知ってるか」
 久々に誰から電話がかかってきたかと思ったら、開口一番磯崎はそう云った。雷門からの帰り道、自宅近くの歩道を歩きながら剣城は発信者を見てすぐに切ろうと思っていた携帯をそのまま耳に押し当てる。
「やっぱり知らないか…。まあ当たり前だよな、おまえシード連中と連絡取ってないだろうし。オレも、あいつが行ってた学校のやつから聞いただけだから又聞きだけど」
 話の唐突さと内容の異質さに思わず押し黙っていると、磯崎は勝手に話を進め始める。何かを吐き出したがっているような、常よりも言葉数の多い磯崎の話を剣城はただ静かに聴いた。
 長嶺徹という少年は剣城と磯崎、そして天河原の隼総が通っていたフィフスセクターの訓練施設での同期だった。剣城はそう間を置かずに上のランクの施設に上がったので共に過ごした時間はそう長くは無かったが、記憶には残っている。負けず嫌いでプライドの高い少年だった。それからもそこに残っていた磯崎には尚更馴染みのある人物だろう。磯崎の声は抑え切れない感情が滲み、震えていた。
 関東のある地区に派遣された長嶺は厳しい訓練によって鍛え上げられた自身のサッカーと、それに裏打ちされたシードとしての自信をもって、その仕事を全うしていたらしい。フィフスセクターの影響力の強い学校で、彼は剣城のようにシードであることを明かした上でその実力でサッカー部を統制していた。ところが、雷門が勝ち進むことでシードとしての立場は徐々に悪くなり、部内に革命派が現れた。その時点で長嶺は大分追い詰められていたらしい。
その後、雷門の優勝によってフィフスセクターは解散され、シードとしての職務も無かったことになり、解体されていく組織を横目に長嶺は学校内での居場所を失い、その将来を期待していた親にも見捨てられて、目に見えて塞いでいき―。
「それで、学校で飛び降りたんだってさ。あいつ」
 あくまで軽い口調を装って、磯崎はその事実を述べた。外階段の踊り場から飛び降りた長嶺は幸い植え込みがクッションとなって一命は取り留めたが、大怪我を負って今病院にいるという。
「オレたちにとってフィフスセクターって絶対的だったからさ。長嶺の気持ち、解らないでも無いんだ。オレだっておまえらに負けた時、終わったって思った。オレの将来全部終わっちまったってな」
 そう語る磯崎の言葉には確かな実感がこもっていて、剣城は何も云えずに黙って聞くことしか出来なかった。
初めから兄の手術費の為だけにシードとなった剣城には彼らの気持ちは解らない。ただ彼らが親の期待を背負い、自分の将来をかけて、フィフスセクターでの厳しい練習に耐えていたことは知っている。ただ強くなりたい人間、親の期待を背負っている人間、自分の将来を確かにしたい人間、それぞれ目的や抱えているものは違っていたが、誰もが自分の望みを叶える為に必死だった。そして望みを叶える代わりに忠誠を求められ、そうしていつしかそれが絶対になっていく。フィフスセクターが自分の中の全てになっていくのだ。
 それまでの全てが一瞬にして消え去るときの気持ちとは、どんなものなのだろう。そのときに、傍に誰もいてくれなかったら、自分だって飛び降りるくらいのことはしたかも知れないと思った。兄がいて、天馬がいてくれたから、自分はもう一度立ち上がることが出来たけれど、もし一人きりだったなら。自分の存在理由を見失ったとしてもおかしくはない。
「オレたちはさ、学校が受け入れてくれたからマシだったけど。隠してたやつらはシードだってバレていじめられたりとかもあるって聞くし、転校を余儀なくされてるやつらもいる」
 フィフスセクターという巨大な組織が崩れたときの影響力について、具体的に考えたことなどあっただろうか。フィフスセクターに逆らうことでどうなるのか、その恐怖は知っていても、それだけ他者を抑圧出来る組織が潰れたとき、どういう状況になるのかなんてそこまで、少なくとも剣城は思い至らなかった。他の雷門サッカー部の面々もきっとそうだろう。
 本当のサッカーを取り戻すことだけが頭にあった。そうすれば全てが終わって、押し付けられたサッカーをプレイする子どもたちはいなくなる。そう思っていた。あれだけ将来にこだわっていた南沢が最後にはサッカーの楽しさに気付いたように、強さに固執していた白竜が大切なことに気付いて笑ってくれたように。
 でもそれを望む人間ばかりじゃないことを、剣城はいつの間にか忘れていた。フィフスセクターの内側にいてそのことを知っていたはずなのに、天馬たちとするサッカーが楽しくて、見えなくなっていた。




 ◇ ◇ ◇




「……またか」
 溜息を吐きながら、自宅のポストを開け、中の郵便物を取り出す。母親のクレジットカードの請求書や近々オープンする店のチラシなどに交じって、宛名の無い白い封筒がひとつ。また溜息が出る。見覚えのある封筒に半ば諦めのような気持ちを抱きながら、玄関で靴を脱ぎ、誰もいないリビングへと足を運ぶ。ぼふんとソファに勢いよく身を横たえながら、そっと白い封筒の封を切ると中からバラバラと何枚もの写真が落ちてきた。その中のひとつを手に取る。
「悪趣味」
 本当に悪趣味としか云いようが無い。写真の中で幼い自分が男に蹂躙されて泣き叫んでいるさまを眺め、そう吐き捨てて、剣城は写真をぐしゃぐしゃに握り潰した。数日前から毎日、こんな写真が自宅へ送りつけられるようになっていた。
 写真は全てシード時代のものだ。フィフスセクターに入ったばかりの頃の幼い自分、ゴッドエデンでのもの、そして中学に上がってから。嫌がって涙を流しながら身を捩る様子、快感に溺れて自分から男の上でいやらしく腰を振っている姿、頬を真っ赤にして男のものをしゃぶっている顔。選んで現像しているのか、同じものが送られてきたことは一度も無い。
 封筒に切手も宛名も無いから自分でポストに入れているのだろうが、昼間家には誰もいないから誰がこんなことをしているのかは解らない。フィフスセクターの関係者であることは間違いないだろうが、心当たりは無かった。最も剣城を恨んでいる人間などたくさんいるだろうから、やり場の無い怒りをぶつけるために、誰かが当て付けに送ってきていたとしてもおかしくはない。極普通の顔をして楽しそうにサッカーをしているけれど、おまえは本当はこんなに淫乱で汚いのだと。そう剣城に知らしめたいのかも知れない。そんなこと、誰かに云われなくても自分自身が一番理解しているのに。
 封筒と床に散らばった写真を集め、キッチンへ行く。換気扇をつけて、一枚一枚ライターで写真を燃やした。両親が帰ってくるのが遅くて良かったと思う。見られないで済むし、処分するのも楽だ。事故以来、ずっとぎくしゃくしていて剣城に対しても放任気味だった両親だが、さすがに年端もいかない息子のこんな写真を見たら驚くだろうし、傷つき悩むだろう。両親に心配をかけたくなかった。
 写真を全て燃やし終え、封筒も燃やしてしまおうとして、ふと中にまだ一枚写真が残っていることに気付いた。取り出して確認して、それまでずっと無表情だった顔がぐしゃりと歪む。指先が震え、平静を保っていられない。ずるずるとキッチンの壁に背を預けるようにして座り込み、剣城は両膝を抱えた。ああ、恐れていたことが現実になろうとしている。そんな絶望感で目の前が暗くなる。
 写真は、天馬と剣城が仲良く笑っている下校風景だった。
 これがどういう意図をしているのか気付かないほど剣城は鈍くない。相手がどんな手に出てくるにせよ、天馬に危害が及ぶ可能性に剣城は唇を噛んだ。磯崎の電話を受けて写真が届くようになって、ずっと考えていたことがまた再び頭の中をぐるぐると巡っていく。




 ◇ ◇ ◇




「なあ、あの写真、なに?」
 少しの間を置いて口を開いたのは天馬だった。胸の中でぐちゃぐちゃになった感情に後押しされるように天馬は剣城に問いかける。その声は決して冷たいものでは無いものの、僅かに非難めいた響きが滲んでいた。
「見たら解るだろ」
「解らないよ。いつ、誰にされたの? 合意だった? それとも誰かに無理やりされたの?」
 目を逸らして素っ気ない口振りで答える剣城に天馬はどんどん感情が暴走していくのを感じる。つい捲くし立てるみたいに疑問を重ねてしまい、これではいけないと思う。こんな風にしたいんじゃない。もっと落ち着かないと。そう考え、深呼吸をするものの、次の瞬間、剣城が冷めた声で云ったセリフに天馬はカッとなった。
「それを知ってどうするんだ。おまえには関係ないだろう」
 思わず噛み付くみたいにして、剣城に声を荒げていた。
「関係なくなんかない! おれたち恋人でしょ? 教えてくれたって良いじゃんか!」
 ぎりぎりと手のひらを握り締めながら、天馬は思い通りにいかない会話に苛立つ。何で、どうして、教えてくれないんだ。確かに話し難いことかも知れない。細かいところまで云えとは天馬だって求めない。出来れば、合意の上なのか無理やりだったのかくらいは知りたいけれど、それすらも辛いと云うなら聞かない。でもあの態度は無いだろう。話を始めてから一度だって剣城は目を合わせない。声だって冷たくて、棘があって、天馬のことを拒んでいることがひしひしと感じられた。話したくないなら、今は云えないと、云うのが怖い、辛いんだと、素直に云ってくれれば良いのに。恋人のことを知りたいと思うことはそんなにおかしなことなのだろうか?
 裏切られたという失望感に加え、剣城の態度への苛立ちが募り、天馬の中で沸々と抑え切れない感情が育っていく。
「じゃあ、」
 天馬の訴えに剣城は初めて自分から口を開いた。何度か瞬きをして、小さく息を吸ってから、その言葉を吐き出す。
「別れよう」
 一瞬、何を云われたのか解らなかった。綺麗に整っているのに感情の無い、人形のような剣城の顔を天馬はぽかんと見つめた。今、何を云われたんだろう?
「え……?」
「だから、別れようって云ったんだ」
 何が何だか解らなくて、思わず気の抜けた声が出る。剣城はもう一度はっきりとした声で告げてくるその内容を天馬は一文字一文字噛み締めるようにして飲み込んで、ようやく剣城に別れを切り出されているのだと気付いた。
それでも何故剣城がいきなりそんなことを云い出すのかは理解出来ず、やっぱり困惑を露に剣城を見ることしか出来ない。
「本当は最初から無理だと思ってたんだ。俺と、おまえが、付き合うなんて」
 淡々と、剣城は理由を説明する。その顔は本当に人形のようで、感情というものがまるで見えなかった。その言葉にも剣城の気持ちの一切が窺えなくて、天馬は何も答えられない。
どうしていきなり別れるなんてことになったのだろう。剣城のことを心の中で散々罵ったくせに天馬は剣城と別れるという選択肢を今まで一度も考えたことが無かった。凄くショックだったし剣城に対して裏切られたという失望感で一杯になったけれど、それも剣城が好きだからこそ、それだけの衝撃を受けたのだ。嫌いになれないからこそ、苦しかった。
 剣城の言い分も理解出来ない。最初から無理だと思っていたってどういうことだろう。剣城は今まで嫌々天馬と付き合っていたとでも云うのだろうか。今までの優しい声も笑顔も全て嘘だったということなのか。
 そんなことある訳がない。そう天馬は信じたかった。夕暮れの住宅街で、甘えるように抱きついて「しあわせだね」と云ったとき、「俺もしあわせだ」と控えめに微笑んだあの表情は嘘じゃないと。
 だが、縋るように見上げる天馬に剣城は冷たかった。本当は一番冷たいつららを心に打ち込んだのは、剣城自身だったかも知れないけれど、天馬には知る由も無い。まるで剣城が入学式のあの日に戻ってしまったように感じられた。誰かを傷つけることを躊躇わないひとみ。そして同じだけ自分を傷つけることも躊躇わないひとみ。
「汚いんだよ俺は。おまえとは違う。…おまえも俺のこと、汚いと思っただろ?」




 ◇ ◇ ◇




「おまえのせいで俺らの将来台無しになったんだよ。どう責任取ってくれんの?」
 うつ伏せに近い形で横たわる剣城の顎をスパイクの先端で持ち上げて、リーダー格の茶髪の少年が云う。澱んだ黒い瞳は現状についての恨みで満ちていて、剣城は攻撃的なその眼差しを見返すことで応じた。謝れと言外に云われているのは気付いていた。でも自分がどうしようと少年達の恨み辛みが消える訳ではないと思う。彼らの求める未来はもうやってこないのだから。こうして剣城に暴力を振るうのもただ思い通りにならない現実に対する苛立ちを明確な対象としてあげた人間にぶつけたいだけだ。
 剣城の態度が気に食わなかったのか、少年はスパイクで一度剣城を蹴りつけて、そうしてふと何かを思い出したように切れ長の瞳を楽しげに眇めた。しゃがみ込んで、剣城の髪を鷲づかみ、顔を上げさせる。埃に汚れ鼻血が伝うその顔を覗き込んだ少年は苦痛に歪んだ白い面に唾を吐きかけながら嘲笑交じりにその話題を投げた。
「そういえばおまえ、講師と寝てたんだってな?」
「マジかよ」
「ああ。噂だけどな。幹部のちんぽくわえ込んで、ファーストランクまで上ったって」
 他の二人の少年が軽く目を瞠って剣城をまじまじと見つめる。顔から身体から確かめるように視線を這わされ、悪寒が走った。嫌な予感と同時に胸にひたひたと満ちていく諦念。
「オレらのちんぽもくわえてくれよ」
 にやにやとした下卑た笑みと案の定のセリフに剣城は押し黙ったまま、内心溜息を吐いた。でもこのまま暴行を受けるよりはマシかも知れないと思う。少なくとも性的に満足さえさせれば、まだ性的に子どもな少年達はそこまで酷いことはしてこないだろう。三人相手だからどちらにせよ、体力的に変わらないような気もするが。
 もう男に奉仕させられることに対しての羞恥心やプライドなんてとうの昔に失われていた。どうせ汚い身体なのだ、今更何をされてもきっと変わらない。男達が頭上で交わす会話を聞きながら、剣城は大人しく次の行為を待った。
「ちょうどいいや。溜まってたんだ」
「男だぞ? 正気かよ」
「目瞑ってりゃ女と同じだろ。女優の顔でも浮かべとけ」
「そりゃそうか」
「フェラとか初めてだぜ俺」
「じゃあ俺一番な」
 最初に云い出したリーダーの少年が制服のベルトを外し、前のジッパーだけ下ろして性器を取り出す。横から大柄な少年に腕を掴まれ、膝立ちにさせられて、目の前に少年のそれを突き出された。
「ほら、くわえろよ」
 高圧的な態度で命じられる。髪を掴んで、無理やり唇に性器を押し当てられ、股間に顔を埋めるような形になった。剣城よりひとつかふたつ年上なのだろう。大分生え揃った陰毛が頬に当たる。
 どんなに慣れていると云っても、実際にそういう行為をしたのはもう三ヶ月以上前の話だ。久しぶりに目前に迫ったペニスをくわえるのには勇気が要った。
「ったく、しょうがねえな」
 躊躇していると舌打ちが聞こえ、もう片方の手で唇に指を押し込まれた。不意打ちに歯を閉じることも出来ず、口内に三本の指が入り込む。そのまま唇を抉じ開けて、少年は半勃ちの性器を口の中へと押し込んだ。生暖かい体温を伴った肉のかたまりが口内を満たす。
「噛むなよ。噛んだらおまえの足マジで潰すからな」
 鋭い眼差しで一睨みし、少年は脅し文句を口にした。サッカー少年にとって一番大切なものが何か、よく熟知しているセリフだった。








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