◇ Puppy love






AM 10:24




「ねえ、染岡くん」
「何だ?」
「さっきから疑問に思ってたんだけど。・・・・・・何でそんなに離れて歩いてるの?」

 僕たちの間にある、50センチくらいの隙間に疑問を呈すると、染岡くんは不機嫌そうに顔を顰めて、口を噤んだ。その仕草に僕は更に首を捻るしかない。
 いや、薄々は気付いている。だけど、それを認めてしまったら、せっかくのこの時間がもったいないじゃないか。だって今日はいわゆる、初デートってやつなんだから。
 恥ずかしがりやな染岡くんが隣に並んで歩くことを常よりも意識していることくらい、僕だって解ってる。でも、僕たちは恋人同士で、今日は記念すべき初デートなんだよ?

「手、繋ごうなんて云わないからさ、隣歩くくらい良いでしょ?」

 距離を詰めるように一歩、染岡くんの方へ足を踏み出して、身を乗り出すようにして、染岡くんの顔を覗き込む。上目遣いになるのはちょっとだけ計算もあるけど、95%は身長差故の必然だ。
 僕の頭は染岡くんの肩くらいまでしかないから、どんなに背伸びしたって、踏み台でも使わない限り、同じ目線に立つことは出来ない。それは男としてとっても悔しいことだけど、でもこうして染岡くんが顔を赤らめてうろたえてくれるなら、悪くないかも知れないと僕は最近思っている。

「だめ?」
「・・・・・・解ったよ」

 染岡くんは顔半分を覆うように口元に手のひらを当てて、しばらく逡巡していたけれど、僕が駄目押しに小首を傾げると、最終的には渋々と云った風に頷いてくれた。
 眉を寄せて困ったように僕を見る染岡くんの顔が余りにも可笑しくて、僕は思わずふふっと声を上げて笑ってしまう。
 ほんと、気にしすぎなのにね。別に隣を歩いていたって、友達同士にしか見えないのに。でも、そうやって変に意識してるところ、僕は嫌いじゃないよ。むしろ、

「・・・・・・好きだよ、染岡くん」

 ぐっと縮まった二人の距離。ちょっと身体を寄せれば服が擦れ合う近さで並んで歩きながら、僕はそう囁いた。小さい声だったから、きっと他の人には聞こえない。ましてや、この雑踏の中では。
 もしかしたら、染岡くんにも聞こえなかったかも知れない。それくらい、微かな声だった。だけど、どうやら染岡くんにはちゃんと届いていたようだ。
 見上げた先の耳の端っこが真っ赤に染まっているのが見える。そして、何よりも確かな証拠として、

「馬鹿」

 そう云って、彼は僕の頭を乱暴にかき混ぜた。朝、せっかく頑張って整えた(きっと染岡くんは無駄な努力だって云うだろうけど)髪をぐしゃぐしゃにされる。
 ちょっと痛いけど、でもその無骨な手のひらが僕は好きだ。こうして撫でられるのも嫌いじゃない。だって、こうして染岡くんから触れてくれることなんて滅多に無いから。
 だけどねえ、染岡くん。
 その仕草の方が、よっぽど目立つってこと、君は気付いているのかな?








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