改めまして、よろしくねのすぐ後の小話。






◇ おそろいストラップ






 結局俺と吹雪は皆が食べる通常の時間帯からは大幅に遅れて夕食を食べ終えた。暖かいお茶の入ったマグカップを片手に食後のひと時を寛いでいると、風呂上がりらしい風丸がひょいと俺と吹雪の向かいに座る。

「今日は大変だったな。ひったくり捕まえるなんて」
「風丸くん」
「ほんと、何とかなって良かったよ」
「佐久間くん格好良かったんだよー」

 濡れた長い前髪をタオルで拭いながら問いかけてくる風丸にお茶を啜りながら答える。
 案の定と云うべきか、監督に連絡がいった以上、チームに伝わるのも時間の問題だと思っていたが、宿舎に帰ってみたら皆が今日の出来事を知っていた。おかげで、夕食の時間に間に合わなかったことをマネージャーに叱責されることは免れたものの、代わりに監督に呼び出される羽目になった。まあお説教と云う訳では無く、あんまり危ないことはするなと釘を刺されただけで終わったけれど。

「でも吹雪と佐久間が一緒に出かけてるなんて珍しいな。何かあったのか?」
「たまたま吹雪と映画見に行ってたんだ」

 微かに目を丸くして小首を傾げる風丸。まあ自分でも吹雪と一緒に出かけるなんてと思っているから、風丸の疑問も解らないでも無い。
 理由を説明すると、風丸は良いなあ、と呟いた。

「映画かー、俺も久しく行ってないな」
「見る? パンフレット買ってきたの」

 いそいそと足元に置いてある映画館の白のビニール袋を机の上に出して、吹雪は中身を取り出す。パンフレットにポストカード。吹雪はその二つを風丸に見えやすいよう机の上に広げた。

「え、何を見てきたんだ?」
「ドキュメンタリーだよ、ペンギンの一年を追いかけててね、」
「もうスクリーン一杯ペンギンが映ってて、どれも皆可愛くてな!」
「ね、ヒナとかふわふわしててほんと可愛かったよね!」
「ヒナが親を求めて泣くところなんか、俺の方が涙出てきたぞ」
「親が子どもの為に一生懸命巣まで帰るところもね」

 パンフレットを開いて印象的な場面を指差して見せながら、吹雪は映画の説明をする。今日見てきたばかりだが、やっぱりパンフレットの中でもペンギンは可愛かった。思わず声に熱が入るのに、吹雪は笑顔で頷いてくれる。

「……そ、そうか。……あれ? それは何だ?」
「あ、これ? ストラップだよ。可愛いでしょ?」

 俺たちの勢いに若干引き気味の風丸は袋の中からはみ出たパッケージに手を伸ばした。吹雪の、青いペンギンのストラップだ。にこにこと笑っているようにも見えるペンギンをじっと見つめてから、風丸は笑ってそれを吹雪に手渡した。

「ああ、可愛いな」
「佐久間くんと色違いのお揃いなんだ」
「俺のも可愛いんだ。ちょっとぶすっとしてて、それがまた良いと思わないか?」

 俺もまた同じようにまだ封を開けていないストラップを取り出して、吹雪のストラップの隣に並べてみせる。
 うん、やっぱり買って良かったな。この生意気そうな顔が心底可愛い。

「……なあこれ、俺、突っ込んでも良いのか?」
「え? 何が?」
「何のことだ?」
「……いや、良い…………」

 呆れたように溜息混じりに云った風丸を横目に俺たちは顔を見合わせて、風丸の言葉の意味が解らずに小さく首を傾げた。








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