◇ 改めまして、よろしくね  04






「ねえ、ちょっと寄りたいところがあるんだけど」

 ファミレスを出た俺たちは大通りの外れにある大きなショッピングモールに来ていた。お互いに特別な用事は無かったのだが、せっかく外に出たんだし、と吹雪が提案したのだ。俺も、このまま帰るのは勿体無いなと思っていたところだったので、二つ返事で頷いた。ここなら服や雑貨はもちろん、本屋やCDショップ、ゲーセンなど暇が潰せるところがたくさんある。
 そして、その中の一角を歩いていたところで、吹雪がこう云い出したのだった。

「いいけど、どこだ?」
「あそこ」

 吹雪が指差した先に俺は絶句する。カラフルな色合いのいかにもな店構え、女子がかわいい!と叫ぶだろうクッションやぬいぐるみが並べられた商品棚。これは……。

「……俺はここで待ってる」
「そう? じゃあすぐに終わらせるね」

 たっぷり十秒の間を置いて、出した答えに吹雪は小さく笑いながら、すぐに背を向けて店の中へと駆けていった。さすがの俺も女子中高生が入り浸る、あの店内には入れない。むしろ何でお前は何の違和感も無く入り込めるんだ吹雪。しかも一人で。恥ずかしくないのかよ。解ってたけど、一般的な男子中学生としてはどっかズレてるよな、あいつ。
 女子の群れの中へ消えて行った吹雪を見送り、近くにあったベンチに腰掛ける。しばらく携帯を弄っていると、吹雪は目的のものを見つけたのか、5分くらいで帰ってきた。

「あれ、早かったな」
「うん。ちょっとクリップが欲しかっただけだし。風丸くんが使っててさ。朝、顔洗うのに便利だなあって思って。ああいうのって基本、女の子用しか売ってないから、こういうとこの方がたくさん種類があるんだよね」
「ああ、だからか」

 もう少しかかると思っていたから、つい拍子抜けして驚く俺に吹雪は手に持った小さなピンク色の袋を掲げる。セロハンテープで止められた袋からブルーの透明なクリップを出しながら説明する吹雪に俺はなるほどと頷いた。確かにこういうものは女物の方が種類は多いし、見た目も良いものが多い。
 吹雪がクリップを片付け鞄の中へ仕舞うのを見届けて、椅子から立ち上がる。特に行き先も無いのだが、何となく二人並んで歩きながら、他愛も無い会話を交わした。

「顔洗う時、前髪邪魔だよねー。佐久間くんはどうしてるの?」
「俺は全部ヘアバンドで上げるな」
「なるほどね、その手もあるか」

 ふむふむと顎に手を当て考え込む吹雪。そうして5メートルほど進んだところで、吹雪はふいに別の話題を切り出した。

「あ、そう云えば、さっき凄い可愛いペンギンのぬいぐるみ見つけたんだ」
「え、何処の店だ!?」

 思わず反応してしまう。自然と声が大きくなって、吹雪が俺の剣幕に驚いているのが解った。元々丸い瞳が更に丸く見開かれている。吹雪は俺の勢いに押されるように、恐る恐る口を開く。

「いや、さっき僕がクリップ買ったお店だけど……ポーチもあってね、よっぽど買おうか悩んだんだけど……って佐久間くん!?」
「さっきの店だな。よし!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 佐久間くん!?」

 吹雪の話を半分も聞かずに、俺は走り出した。後ろで吹雪が焦ったように俺を呼び止める声が聞こえる。しかし吹雪、ペンギンが待っているんだ。悪いが、俺は止められない。人が多くて、全速力では走れなかったが、サッカーで鍛えた脚力を発揮し、超スピードでさっきの店の前まで戻る。相変わらず、店の中はピンクだの赤だのオレンジだので溢れていて、周りも女子だらけだったが、俺は躊躇いも無く、飛び込んだ。ええい、背に腹は変えられない。
 店の中をぐるりと見渡し、必死に吹雪の云うペンギンのぬいぐるみを探していた俺には後からようやく追いついた吹雪が呆れたようにぼそりと零した一言は耳に入らなかった。

「佐久間くんってほんと、ペンギンが絡むと性格変わるよね……」








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