◇ ふいうち






「そういえば、豪炎寺くんは昨日、夕香ちゃんとクリスマスパーティーしたの?」
「ああ。ちょうど父さんも仕事が無かったみたいで、三人でやった」

 一歩先を上機嫌で鼻歌を口ずさみながら歩いていた吹雪がふいに足を止めて振り返り、今思いついたとでも云いたげに唇を開いた。
 突然振られた話題に俺は少し驚きながら答える。俺の返事に吹雪はふふ、と声を上げて笑いながら、今度は俺の隣に並んで歩き始めた。

「そっか。プレゼント貰った?」
「貰った。図書カードだった。まあ、本を読めということだろうな」
「豪炎寺くんは十分、読書家だと思うけどな。僕なんて漫画や雑誌ばっかりだもの」
「お前が読まなさすぎるだけだ」

 えー、と吹雪が乾燥して赤くなった唇を尖らせる。手ぶくろを忘れたからと云って、外に晒されている指先もまた真っ赤だ。小さな手は少し吹雪には大きいんじゃないかと思うダッフルコートの袖の内にぎゅっと縮こまっている。

「じゃあさ、面白い本、教えてよ。僕が飽きないで、最後まで読めそうなの」
「解った。今度貸してやるよ」
「やったあ」

 吹雪は嬉しそうに笑って、俺を見上げた。その頬は北風を受けて、赤く染まっていた。肌が白い分、その赤は余計に際立って見える。
 名前や必殺技の通り、雪の化身のような吹雪は、その見た目に反して、とても寒がりだ。よくあの雪国で暮らせたなと感心してしまうくらいに。

「吹雪、」
「なに?」

 名前を呼べば、吹雪は大きな瞳をきょとんとさせて立ち止まり、俺を見つめる。手ぶくろに包まれた左手で冷たそうな頬を撫でると、吹雪はくすぐったそうに肩を竦めた。
 その表情が何だか無性に愛しく思えて、その頬に恭しくひとつ、口付けを落とすと、吹雪は唐突な俺の行動に驚いたのか、目を丸くして、顔を更に真っ赤にした。マフラーで隠れているから解らないけれど、きっと首筋まで赤くなっているんじゃないだろうか。

「ご、ごうえんじくん?」
「どうした?」
「ふいうちにも程があるよ・・・・・・口にキスするかと思った」

 マフラーに顔を埋めて、吹雪はぼそぼそと何事かを呟いた。俺の耳には届かないそれがどんな意味を持つのか、気にならない訳では無いけれど、好奇心を抑えて、俺は左手の手ぶくろを外した。それを吹雪の左手を取って、丁寧にはめてやる。俺に合わせて買ったそれは吹雪には大きいようだったが、小さいよりはマシだろう。

「・・・・・・こうしたら、寒くないだろう」

 何が何だか解らないと目を瞬かせている吹雪の右手を自分の左手で包んで、歩き始める。自分でもさすがに恥ずかしいことをした自覚があって、そっぽを向いて、説明をした。自分の顔も、きっと吹雪の顔みたいに真っ赤になっているのだろう。日に焼けた肌の色が誤魔化してくれると良いのだけれど。

「豪炎寺くんって、ときどき、凄く大胆だよね」
「嫌だったか?」
「ううん、」

 しみじみと云う吹雪の横顔を見ていたら、だんだんと不安になってきた。小首を傾げて問いかける俺に吹雪は満面の笑みで俺を見上げた。
 繋がれた手をぎゅっと引かれ、瞬間、耳たぶに温かい湿った吐息がかかる。かさついた唇が耳の端に当たって、吹雪の甘くて柔らかい声が鼓膜に直接響く。

「そういうところも、好きだよ」

 そういうお前こそ、ふいうちすぎると、俺は思う。








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