◇ ある土曜日の話  02






 そもそもどうして今日、僕が豪炎寺くんの家へ行くことになったかというと、月曜日提出の総合学習のレポートが終わらなかったからという、ただそれだけの理由である。
 クラス関係なく、アンケートを取って、やりたいテーマを選択し、それについての新聞形式のレポートを纏めて発表するという、恐らく何処の学校でも行なわれているだろう総合学習の授業。
 それで、僕はたまたま豪炎寺くんと同じテーマを選択し、2人か3人のグループでやれという先生の指示に従って、一緒にやることになったのだ。ちなみに僕たちのテーマはこの地域における福祉について。他には歴史とか産業とか環境とか、まあ要するに地域についての調べ学習だ。この間、幾つかのグループで纏まって、近くの施設に社会科見学にも行った。
 金曜日、二人で下校ギリギリまで粘ってやったにも関わらず、纏め切れなかったこのレポートを僕たちは宿題として持ち帰る羽目になり、尚且つ、僕の家にはパソコンもプリンターも無いので、必然的にそれらが揃っている豪炎寺くんの家にお邪魔することとなったのだった。

「吹雪、さっさと終わらせるぞ」
「はーい」

 肩にかけていたショルダーバックを下ろして、中から途中まで書き込んだ新聞用の大きな紙とペンケース、昨日図書館で借りてきた本を取り出す。
 豪炎寺くんは小さい折り畳みの机を組み立てて、部屋の真ん中に置いている。フローリングにそのまま座るのはさすがにあれだと思ったのか、クッションを渡されたので、有り難くその上に腰を下ろした。

「部屋、綺麗だね。片付け好きなの?」
「片付いていないと落ち着かない」
「凄いなあ。僕、片付けられないんだよね」

 ぐるりと部屋を見回して、感嘆の息を吐くと、豪炎寺くんは当たり前だと云いたげな顔をした。まあ、君にとってはそうだろうね。僕にとってはそうじゃないけど。
 僕はどうしても出したものを出しっ放しにしてしまうくせがあるからなあ。それにしても、綺麗だ。本棚なんかきっちり整理してあるし、机の上も綺麗。あ、あの雑誌、僕、あの号だけ読んでないんだよね。後で見せて貰おう。

「ほら、さっさと進めるぞ」
「うん、そうだね。早く終わらせてケーキ食べよ」

 豪炎寺くんが学校でプリントアウトした資料を広げながら、きょろきょろしている僕を急かす。僕はペンケースからシャープペンシルを取り出しながら、素直に頷いた。
 宿題なんてさっさと終わらせてしまうに限る。豪炎寺くんが真面目な顔で資料の何処の部分を抜き出すか睨めっこしているのを見ながら、僕もまた借りてきた本を手に取った。






「お、わったあ・・・!」

 清書用に握り締めていたボールペンを机の上へ放り投げて、大きく伸びをする。勢いが良すぎて思わず後ろにひっくり返りそうになりながら、息を吐き出すと疲れがどっと押し寄せてくる気がした。
 宿題に取り掛かってから約二時間。もうそろそろ集中力にも限界が訪れてきたところだった。試験勉強とかもそうだけど、人間の集中力って限界があると僕はいつも思う。それは豪炎寺くんも同じようで。

「後はこれを月曜日に提出するだけだな」

 机の上に散らばった筆記用具を片付けながら、豪炎寺くんもまた少し疲れた声音で云った。何事にも真剣で集中力の高そうな豪炎寺くんだけど、やっぱり疲れる時は疲れるらしい。
 僕も早く片付けを終わらせてしまおうと切り取った紙の切れ端とか消しゴムのカスとかを拾う。

「何とかまとまったね」
「そうだな」

 何とか完成に至ったレポートは見た目はそこそこ綺麗に出来ている、と思う。僕と豪炎寺くんの字が入り乱れて、ちょっと読み難いところはあるけど、大丈夫だろう、きっと。豪炎寺くんの字は綺麗だし、僕もそんなに汚くは無いはずだし。
 内容もちょっと調べれば解るようなことだらけだけど、上手く要約出来た。見た目にも写真やグラフをたくさん使って華やかだ。
 よく頑張った僕!(と豪炎寺くん)と自画自賛しながら、豪炎寺くんを見ると、豪炎寺くんも同じように頷いてくれた。そして、開きっ放しの本を閉じつつ、僕がすっかり記憶の彼方へ追いやっていた事柄を口にする。

「問題は発表の方か」
「うう・・・。それがあったの、忘れてた・・・・・・。どうしようかな」
「まあまだ時間はある。後でじっくり考えよう」

 頭を抱える僕に優しく声をかけてくれる豪炎寺くん。だけどそれって、結局、後回しにするってことだよね。やっぱり豪炎寺くんももう、集中力切れてるみたいだ。
 だっていつもの豪炎寺くんなら、早めに発表の原稿を考えておこうとか云うはずだもの。

「ケーキ、食べるか」
「うん!」

 あらかた片付け終えて、ペンケースをバッグに仕舞っていると、豪炎寺くんが立ち上がって机を畳み、僕を振り返った。ようやくのご褒美に僕の声が跳ねたのは云うまでもない。








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