![](//img.mobilerz.net/sozai/1_w.gif) 原稿カット部分(天京+モブ京)
※原稿のカットした部分というか、プロットからカットした部分というか。ちょっと出した本「きみというひかり」の中身が入ってるので、駄目な方はブラウザバック。また軽くモブ天匂わせる部分があります
翌朝、結局天馬も剣城も見事に寝坊した。昨日起きた出来事が出来事だったからか、秋は怒らずに春奈へ電話をかけて遅刻の連絡を入れてくれた。 「剣城、一旦家帰る?」 「ああ。着替えたいし、それに……」 「それに?」 木枯らし荘を出て学校の方へ歩きながら問いかける天馬に剣城は歯切れの悪い返事をした。復唱すると剣城は云い辛そうに口を開く。 「あの写真。また届いてたら母さんに見られる前に隠しとかないと……」 まだ事件は丸く収まっていたわけではないことを思い出し、天馬は剣城との距離を一歩詰めた。なるべく傍にいなければいけない。 「おれも一緒に行くよ」 「おまえは先に学校行ってればいいだろ?」 「ほら、やくそく。覚えてる? おれと剣城はしばらくずーっと一緒なんだよ」 どうして着いてくるのかと不思議そうな剣城に小指を立てて見せる。剣城は昨日のやりとりを思い出したのか、眉間に微かに皺を寄せた。天馬に言い負かされたのか、実は随分と悔しいらしい。 剣城の家は河川敷グラウンドのところの橋を渡ってすぐの住宅街にある、極普通の一戸建てだ。玄関で待ってろと云われたので、玄関に腰掛けて剣城が着替えたり荷物を用意したりするのを待つ。幸いにも手紙は届いておらず、二人で昨日はイナッターの件があったから止めたんじゃないかという憶測をした。 「出来たぞ、行くか」 「うん」 玄関を出て学校へ向かおうと門を潜る。そのとき、さっきは無かった変なものに気がついた。白い、封筒。剣城の話に出てくるものと同じ封筒が郵便受けに挟まっている。 「剣城、もしかしてこれ……」 振り向いた瞬間、剣城の呻き声が聞こえる。見たことのない四十代くらいの眼鏡の男が剣城を抱えて立っていた。その手にはスタンガンが握られている。 「剣城に何するんだ! 放せ!」 「静かにしてくれないか。ご近所迷惑だよ」 男は憤る天馬に対して平然とそうのたまった。頭に血が上る。冷静にならないと。このままだとまた剣城が連れ去られてしまう。 辺りをよく見ると、すぐそこに軽自動車が停まっている。あれで剣城を運ぶつもりなのかも知れない。携帯で円堂に連絡したいが、気付かれたら天馬も不味い。剣城を奪い返したいのに、まともな対処も考えられず、天馬は歯を食いしばった。また不甲斐ない思いをするのは嫌だった。 男がふと余所見をした瞬間を狙って、スタンガンを持っていない左を狙ってタックルを食らわせる。スタンガンが手から零れ落ち、剣城を抱きかかえているせいで足元がよろめいた男から剣城の腕を掴んでこちらへ引き寄せようとした、そのとき、天馬は身体から力が抜けていくの感じた。鼻先に押し当てられた白い布からは薬品のにおいがする。遠のいていく意識の中で、男のつぶやきが聞こえる。 「面白いことになりそうだね」
◇ ◇ ◇
目が覚めたら、何処だか解らないマンションのソファの上だった。ぶるり、寒さに身体を震わせる。制服を着ていたのにどうやら着替えさせられたようだ。長袖の白いシャツ一枚羽織っているだけだった。 室内はブラインド越しに差し込む光だけで薄暗い。辺りにはパソコン関係らしき機材が散らばり、コードがぐちゃぐちゃになっている。エアコンが寒いくらい利いていた。 とりあえずここが何処なのか把握したくて重たい身体を起こすと、天馬は室内に自分たちを連れ去った男がいることに気がついた。薄暗い室内で大きなモニターの光が眩しい。 「早かったね。薬が弱かったかな」 天馬の気配を察したのか、パソコンデスクのキャスターを回してこちらを向いた男は天馬を見ると眉を持ち上げ、驚いた顔をした。きょろきょろと辺りを注意深く見回す天馬に男はすぐ傍のベッドを指差した。 「剣城くんならそこだよ。まだ眠ってる……いや、今起きたのかな?」 ベッドの上で剣城が身動ぎをするのを見て、男は首を傾げた。辺りをゆっくりと見回して、天馬の姿を見つけ、目を見開く。 「天馬」 「剣城……」 見つめ合う二人に男はにやにやと笑って、ソファのすぐ傍のドアノブに繋いでいたリードを取り、引っ張った。そこで天馬は初めて自分の首に青い首輪がついていて、それがリードに繋がっていることに気付いた。 「せっかくだから、君も剣城くんと同じところで見るといい」 ベッドの上に載せられ、剣城と同じようにベッドの足にリードを括りつけられる。男はブラインドを閉じると、リモコンを手に取った。ベッドのすぐ傍に置かれた大型テレビのスイッチが入り、同時に映像が流れ始める。 「あっ、あ、あうっ……も、ゆるしってぇ……」 いやらしい水音と喘ぎ声。肉と肉がぶつかる音。一瞬見ただけで目を背けたくなる。それはまだ今より幾分幼い剣城が裸体をさらして、父親ほどもあろうかという中年男性の性器を受け入れている映像だった。 不安になって隣の剣城を窺ってみると、感情のない目でじっとベッドシーツを見つめている。 「淫乱だよねえ。ああ、君はもう見たことあるのかな? 剣城くん、上手に喘いでくれるよね」 「剣城は、剣城は淫乱なんかじゃない!」 揶揄するような口調に反射的に叫んでいた。こういうやつらが剣城を食い物にして、傷つけて、今も悠々と笑っているのか。そう思うと怒りが腹の底から湧きあがってきて抑えられない。 「そうかな? まあ映像はたくさんあるからね」 男は天馬の様子を愉快そうに見つめ、数あるDVDの中から映像を選び始めた。ひとつひとつタイトルを確認しながら見ている間にも映像はどんどん過激になっていく。 グロテスクな太いバイブをくわえさせられ、泣き叫ぶ剣城の声に天馬はそっと隣の剣城の手を取った。お互いに震えていて、ぎゅっと握り締めることでようやく震えが収まる。今はその感触だけが二人を現実に繋ぎ止めているような気さえした。 DVDを一枚選び、交換して再生する。そしてベッドに近付き剣城の隣に座るとくいっとリードを引き、剣城を傍に引き寄せる。首輪に咽喉を絞められて剣城は苦痛に顔を歪めた。 「わたしはね、こういうのが趣味でね。フィフスセクターでは随分と美味しい思いをさせてもらったよ。解散しちゃって残念だったねえ」 テレビでは今度は二人の男の相手をしている剣城が映っている。今度はさっきよりももっと幼く、声変わりもしていなかった。 「こないだの試合で君を見て、やっぱり君が欲しいと思ったんだ。君を飼いたいと」 君は見た目はプライド高そうで反抗しそうなのに凄く従順なところが気に入っているんだよ。 剣城の首筋を撫で、にたにたといやらしい笑みを浮かべて、男は云った。人間を飼うなんて発想がそもそも天馬には理解出来ず、気持ち悪くなる。 「でも調べてみるとどうやら君には今恋人がいるみたいじゃないか。だったら恋人絡みで脅せば、一人になってさらいやすいかと思って」 下劣な考え方に吐き気がする。男は剣城の頬を撫で満足したように微笑むと、今度は天馬のリードを引っ張った。 「まあ、その恋人も一緒にさらってくるつもりはあんまり無かったんだけど。まあでも君も剣城くんとは違うタイプの少年で、これはこれでおいしいかなって」 ぐらりと揺れて倒れ込む天馬の健康的に焼けた肌を男は楽しそうに撫でた。ぞわり、寒気がする。男に性的な眼差しで見られることがこんなに気持ち悪いものだと天馬は初めて知った。 「触るな!」 「まあいい。しばらく楽しめそうだしね」 手を払いのけた天馬に男は一瞬不機嫌そうに目を細めたが、すぐに笑みを浮かべ、ベッドから離れていった。
◇ ◇ ◇
結局、巻き込んでしまった。何であのとき、標的は自分に決まっているのに天馬の言い分に頷いてしまったのか。後悔してももう遅く、天馬は剣城と一緒に捕らわれの身となっていた。 「天馬、やっぱり俺が巻き込んで……」 「おれが剣城を守りたくてついてきたんだよ。剣城は悪くない。大丈夫だよ。何とかなるって」 謝ろうとする剣城の手を掴み、手の甲を優しく撫でながら、天馬はいつもの笑みを見せた。天馬だって不安で仕方ないだろうに、剣城を励まそうと明るく振舞う天馬に剣城は自分もしっかりしなくてはと思う。自分だけなら意識を沈めてしまえばいつの間にか終わっているけれど、今回は天馬がいるのだから。 「あの男、見覚えある?」 「ある、ような……ないような」 「やっぱり無いか……」 犯人の男は今は別の部屋にいるようだ。いない間にと二人でこそこそと話し合う。
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