白石蔵ノ介


「蔵ノ介、カメラカメラ!!」
「はいはい」


カメラを取り出しながら返事をする蔵ノ介の表情はまたか、と言いたそうな苦笑いだった。まぁ無理もないだろう。この会話は入園してから今までの10時間、幾度となく繰り返されてきた物だから。


「なぁ…もう食べてええ?」
「…っ、だめ!!」
「も、限界なんやけど…」


ここの会話だけ聞くと、何やらいかがわしい会話に聞こえるが、期待に添えなくて申し訳ない。なんせ私達は今、本当の食事中なのだ。それなのに、私が可愛くトッピングされた食事をパシャパシャとカメラに収めているので、先程から彼の料理も強制的にお預け状態。彼には悪いがこうなった私は止められない。可愛い物に目がない私はこの衝動を抑える事なんて出来ないから。例え彼の手に握られているフォークが、まだかと急かしていても。


「君のそれは病気だと思います…」
「止めてよ、標準語気持ち悪いから」
「あーあーあ、そんな事言うてええの?食うてまうで?」
「わー!まっ、まってごめん!」


身を乗り出して阻止すれば、そのまま手を握られ、うっそーと楽しげに笑う蔵ノ介。ぽかんと口を開けたまま停止した後、思わずつられて笑い出してしまった。彼が私の嫌がることをするわけないのに。


「ごめんね」
「ん?」
「…何でも!」
「なんやそれ」


写真撮影は程々に。


(さて、たべよっか!)



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