財前光


朝、起きたくない、もう行かないと散々駄々こねた光を中ば引きずるようにして布団から出し、支度をさせた私は凄く頑張ったと思う。なのにこいつはその行為のせいで不機嫌Maxになっている。だからあれほど明日は早いから早く寝なって言ったのに。人の言う事聞かないからだよ、と小さく呟くと怖い職業のおじさんみたいな睨み方で睨んできた。怖いよ、光君。て言うか仮にも私彼女なんですけど。そしてココ夢の国なんですけど。その態度は場違いだと思うんですけど。


「うるさい」
「もう、いつまで怒ってんの。折角来たんだから楽しもうよ!」
「めんどくさ…」
「もう、光!」


叫ばんといて、頭に響く。と眉間にしわを寄せる彼。周囲の視線を感じた私は大人しく黙る。ああもう、こんなはずじゃなかったのに。こんなはずじゃなかった。本当はもっと楽しくなるはずだった。なのに、こんな雰囲気じゃ楽しくなるはずない。元々は起きない光が悪かった事、だけど私も怒鳴ったりして、大人げなかった。光が朝弱いのは知っていた事だし、そんな事今更言われなくても理解しているつもりだ。今回、こうなる事も予測の範囲内だった。けど、こんなにも光がどうでもいいと言う態度だと、どうしようもなくムカついてしまう。折角、折角来たのに、なんでそんな態度なの。私ばっかり楽しいみたいじゃない。いや、みたいじゃ無くて実際そうなのか。


「もういいよ、じゃあ帰ろうよ」
「はぁ?」
「だって私ばっか楽しくしたいって思ってるみたいなんだもん、そんなの楽しくないし、もう帰ろうよ。お家にいた方が光だって良いでしょ?」
「何でそないなるんや」
「だってそうでしょ、つまんないんでしょ、私なんかと一緒にいたって!」


不機嫌な彼の態度に頭に血が上り、つい喧嘩腰になってしまう。私の悪い癖。大きな声を出した私に、はぁ、と重い溜め息を吐きだした彼はもう勝手にせえや、と歩きだす。周囲の痛いほどの視線なんかもうどうでもいい。とにかく信じられなかった。私ひとり置いて行ってしまった彼の事が。喧嘩腰に言い返してしまった自分の態度が。もうヤダ。本当に帰りたくなってきた。何が夢の国だ。全然楽しくないんですけど。大体、光とこういう人ごみが凄い所とか来るべきじゃ無かったんだ。そもそもそれが失敗だったんだよ。ああ、もうどうしよう。どうすればいいんだろう。ずっとこのままここにいる訳にもいかないよなぁ。とりあえずトイレとかに避難しよう。


「どこに行くつもりや」


俯いたままの顔をぱっと上げると、そこには某ネズミちゃんの耳のカチューシャをした光が立っていた。ふてぶてしい顔に可愛いりぼん付きのカチューシャがなんともミスマッチしていて、思わず盛大に吹き出して笑ってしまった。そんな私の反応にイラつきながらも恥ずかしいのか少しだけ頬を赤らめて私のほっぺをぎゅーっと引っ張る。痛い、痛い!手加減をしよう、光!


「自分なぁ…」
「ごめ、らって、何しょれ、」
「これは自分のや。俺はこっち」


ほっぺを放したかと思えば、していたカチューシャをはずして私に付けると、代わりに手に持っていたネズミ君のカチューシャをする。私にはそっちのが似合うと思うんだけど。


「何言うてんねんや。こっちの方が似合うに決まってるやろ、アホ」
「光はりぼんの方が似合ってたよ」
「要らん事ばっか喋りよる口は塞いだる」


グイッと首の後ろに手をやられ、反論しようとした口を塞がれる。言った直前に実行するのってずるいよ。そう言いたくても塞がれてるので何も言えない。だから文句を言う代わりに光の舌を甘噛みしといてやった。


さぁ、夢の国を楽しもう。


(…せやけど、周りの事忘れとったな)
(は、早く移動しよう!)




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