四階建てのその寮は、各階二部屋の構造になっているそうだ。ちなみにトイレお風呂は各部屋についていた。 寮って言うからトイレとか共用で、お風呂も大風呂になっているのかと思いきや、まるで普通の家のようだ。 さらに驚いたのが1LDKなのだ。寮なのに相部屋じゃないし、LDKって。この学園はどれだけお金持ちなんだろう。
「此処にある家具類は勝手に使え」 「え、使っていいんですか?」 「好きにしろ」
上から目線にムカついてんのって私だけかな。なんなんだよこいつ。しかもこっちが敬語で喋ってるのに普通にタメ口だし。自分金持ちですって感じが本当ムカつくんだけど…!
「なんだよ」 「いえ…別に。」
じとっと見ていたのに気付かれてしまったのか、問いただされてしまったがこの際無視だ。目線をそらしながらありがとう、と礼を言えば静かな口調で別にかまわねぇ。なんて言葉が返ってきた。あれ、なんか素直になった?
「それとな、ここの住人の紹介とお前の学校での立場を教えておかなきゃならねぇ。支度ができ次第一階の広間にこい。」 「あ、はい」 「それから…」
にゅっと伸びてきた彼の手に驚き、思わず身を固めてしまった。何もできずそのまま立ち尽くしていると、彼の手が眼鏡を奪い、更に三つ編みのヘアゴムにピン。地味要素を全て取り除いていく。抵抗をしようにも私は男の人に全くと言っていいほど免疫が無かった。それも全く知らない男の人に近付かれ髪をいじられていると言う経験もした事のない状況の中、止めての一言すら出せなかった。それから、まぁ、多少の混乱もあるだろう。
「…やっぱりな。お前、こっちの方が全然いい。」 「は…え?」 「なんでわざわざあんな地味な格好してんだ?」 「なんで、って…」
私にはあの恰好が似合っていると思っていたから。 素直にそう答えると彼は無言のまま奪い取った物を返してきた。一体なんだ。
「…まぁいいか…。だが、これから俺様のそばにいるときはその格好してろ。いいな?」 「は…!?」 「地味な奴は置いておきたくない。」 「はぁ!?」 「あーん?この俺様に文句があるってのか?」
何こいつ。物すっごくムカつくんだけど。なんなのこいつ。人間?生き物?お金持ちのボンボンってみんなこんな礼儀とか失礼な事言ってるって気付かないもんなの?もうそれって人としてどうなの?
「いいえ、別に。気をつけて置きますね」
怒りのせいで我を忘れ叫びそうになるも、ぐっと我慢して大人な対応を見せる。こんなアホのせいでもし今回の話が無かった事にでもなったら、それこそもう本当に私には居場所が無くなってしまう。早く大人になって安定した職に付かなければいけないと言うのに。あの園を、守らなくちゃいけないのに。
だからここはぐっと我慢だ、name。
「…分かればいいんだよ。じゃあ行くぞ。」 「ええ」
下手に出てればこっちのものだ。特に反感を買うような真似さえしなければ、この学園生活を自由に平和に地味に過ごす事が出来る。
…そんな風に考えていた私の考えはこの後、彼の発言により見事に砕け散る事となる。
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