02

家に帰ればそこにはがらんとした冷たい空気だけが流れている様に感じた。いつもなら、そんなに寂しい何て思わないのに、今日は凄く寂しく思えた。海外に単身赴任している父について行った母。馬鹿みたいにラブラブだからもう今更何か言うつもりはないけど、たまに家に帰って来て欲しい。特に、今日みたいな日は。溜め息をこぼしてソファに座ってテレビを付けると不意に携帯が鳴りだした。携帯を制服のスカートから引っ張り出して開くと、そこには部長さんの文字が。…何故?恐る恐る出てみると、呑気にこんばんわ、なんて言う声が聞こえた。


「…どうして携帯の番号知ってるんですか…」
「あは、アドも交換しておいたよ」


交換した記憶がないのに一体いつしたのか聞きたい。部長さんは高らかに笑い(笑い事じゃない)企業秘密だよ、と怪しく言う。にやにやと怪しげな笑みを浮かべている部長さんが鮮明に思い浮かべられる。で、用件なんだけどさ。と相変わらず切り替えの早い部長さんは単刀直入に言うよ。と何とも爽やかな声で凄い事を言って来た。


「マネージャーになってくれないかな」
「…お断りします」
「却下」
「えええ」


予測の範囲内だと言わんばかりに笑う声が聞こえた。大体マネージャーの件はもう良いって言ってたじゃないか。それにあの時了承したのも仕方なく、だ。今は自分の事で精一杯なのに、人の世話なんてできる訳がない。部活に入っていないから今、自分の時間ができていると言うのに。部長さんには悪いが、私にとってはそんな時間を削ってまで入る程の価値があるとは思えない。


「絶対入りませんからね」
「仕方ない子だなぁ」
「どっちがですか!」


自分を棚にあげるようなコメントに思わずつっこみを入れてしまった。くすくすと笑う彼の声に苛立ちを覚え始めたころ、彼は急に真剣な声で話し始める。


「仁王の事を頼みたいんだ」
「どうしてまた仁王なんですか」
「それは君が仁王に執着してるからだろう?」
「そんなことありません。」
「うそばっか、そろそろ素直にならないと誰かに取られちゃうんじゃない?」


彼は相変わらず分からない人だ。見透かしているような、適当な事を言っているのか分からない曖昧な言い方をする。今だって声色だけを聞けば真面目な事を言っているように聞こえるが、この表情はにやにやと笑っているのかもしれない。仁王がこの人を苦手っていう理由が分かる気がする。


「私には関係の無い事です。」
「そう?じゃあお願いの仕方を変えよう。俺の偽彼女になって欲しいって今日言ったよね?」
「そうですね」
「俺、うっかり君が俺の彼女って噂を垂れ流れさせちゃってさ」
「はぁ!?」
「まぁそう言うことで俺と君は学校公認のカップルになりつつある訳だ」


楽しげに話す部長さん。その声には微かにこの状況を上手く使ってやろうと企んでいるような、そんな笑い声が混じっている。電話越しにでも分かる。


「もう一度聞くよ。仁王の事、好きじゃないの?」
「…友人としてなら」
「そう言う意味じゃないんだけどなぁ」
「……」


どうやら部長さんはどうしても私が仁王の事をどう思っているのか聞きたいらしい。いや、聞きたいのではなくて、好きと言わせたいって方が正しいのか。そこまでして一体なんの意味があるのか教えて欲しい。


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