01

放課後の屋上は施錠されていて、入る事は出来ない。だから階段の上で、座って考えていた。自分が今まで築いて来たものって何なんだろう。築いてきたものなんて、あったのかな。嘘付いて騙して生きた今までに築き上げたものなんてあるのだろうか。そんなものは無いと知っていた。こんな事したって自分の為になんかならない。そんなのは昔から知っていた。体操座りでぼーっと前を見つめる私は、他人から見てどんな風に映っているんだろうか。窓から差し込む夕暮れの、オレンジの光が何故だかとても寂しく見える。


「自由にって、難しいよ…」


顔を自分の腕の中にうずめる。部長さんの、言葉が頭の中でこだまして、どうしようもなくイライラする。君はもっと自由に生きた方がいいよ、なんてそんな事出来ていたらしている。自由だと思っていた生き方がこんなにも不自由だと思わなかった。始まりは些細なことだった。偶然が呼んだ、小さな出来事だ。良くあるいじめ、それだけ。それだけで人が怖くなってっ自分に自信が無くなってしまった。だから皆に好かれようと必死になっていい子を演じて、みんなに好かれる私を、演じて。どうしようもないくらい馬鹿なことしてるって気付いた時には、もう手遅れだった。


周りにできた完璧な自分と、内側に残された臆病な自分。


その差はもう埋められないほどになっていて、今更本当の自分を出すなんて怖くてできる訳無かった。どうしようもなく怖くて、その場から動けなくなった私は勝手に独り歩きしだした表の私を必死になって守ろうとしていた。その行為に何の意味も無い事なんか知っていた。表の私を好きになってくれたって、本当の私じゃないから、意味なんて無い。どんなに私が皆に愛して欲しくたって、私が皆と一線を引いているんだから本当の私を好きになってくれるはず無いのに。


「何やっとるんじゃ、ばーか」
「…にお…」
「もう最終下校時間過ぎてるぜよ」
「…探してくれたの?」
「馬鹿言うんじゃなか、そんな訳無いじゃろ」


だよね、と笑うと、腕を引かれ立たされる。どうしてか分からないけど、仁王がむすっとしてる。なんで、そんな顔してるの。鏡見て来い、と目じりを拭われる。その感覚に自分が泣そうだった事に気付く。


「…今更になって、気付くなんてお前さんは本当馬鹿じゃ」
「…うん、本当、ね」
「…表とか裏とかってわける必要なんてなか。ペテン仕掛けてる時も俺とだらだら話してる時も、全部名前に代わりないんじゃ」


裏も表も、分ける必要なんかない。全部、私に変わりない。


「本当にそう思ってる?」
「当たり前じゃ」
「じゃあ、友達でいてくれる?」
「…任せろ」
「今だけは、ペテン禁止だからね」
「わかっとる」


良いから泣き止みんしゃい、と乱暴に袖で顔を拭かれる。いつもだったらムカついて仕方ない彼の笑顔も、今は何故だかムカつかなかった。


「先生に怒られるのはごめんじゃ、裏門から抜けるぜよ」
「仁王悪いなぁ」


彼なりの心遣いだろうか、いつもだったら絶対に持たない私の分の荷物を持ってくれた。俺が泣かせたようなもんじゃけ、今日だけは特別じゃ。ふざけて言った様な言い方だったけど、負い目を感じているのに変わりはないようだった。別に仁王が気にする事じゃないのに。親切に家の前まで送ってくれた仁王にお礼を言おうと顔を上げるも、仁王相手にはやっぱり言いづらくて、よそを見ながら小さくありがと、と呟くとお前さんは…と呆れた声が降ってきた。それとほぼ同時に頬を掴まれ、強制的に仁王の顔と向き合う。


「お礼は目を見て言うもんじゃ」
「う、ごめ」
「お礼じゃろ、謝ってどうするんじゃ」
「…あり、がと」


合格、と手を離される。
仁王の手が、妙に熱くて何とも言えない気持ちになった。


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