05

私が教室に入るなりざわめく教室。別れ際に幸村君が、君が動き易い様にファンからの呼びだしとかはさせないようにするから安心してね、と言っていたけどどこまで本当か分からない。幸村君って思いつきで行動する感じがするからなぁ。手段は選ばないって感じだし。私を平気で餌にしようとするし。ひそひそと呟かれる言葉の数々を聞こえない振りをしながら席に着くと目の前が影になった。顔を上げるとそこには仁王が立っていて、その顔は無表情。


「名前、ちょっとこっち来んしゃい」
「何?」
「いいから」


めんどくさいなぁ、とか思いつつも好奇心には勝てない。いいよ、とあたかも理由は分かりませんって顔をしていく。このくらいは仁王にはばれてしまっているだろうか。ばれないように一つ一つの動作に気を付ける。仁王の後を付いていくとお決まりの場所、屋上へとついた。


「で、話って?」
「お前さん、怖くならないんか?」
「何が?」
「幸村」
「…怖くなんかないよ、好きだもん」


嘘吐き、と間を一歩詰められる。ああ、君の言う通りあの人は怖い。仁王が逃げるのも無理無いよ。だけどここは、へにゃりとした笑顔を向けながら精市君、優しいよ?と言う。そんな私とは対象に気持ち悪い、と言った様に眉間にしわを寄せる仁王。本心は君と一緒、こんな事言う私は私じゃない。うぇ、気持ち悪い。


「…お前さん、嘘が下手じゃ」
「…は?」
「前はもう少し上手かった」
「だって本心だし、」
「お前さん、幸村になんか言われたんじゃろ?」


しまった、思わず顔が固まった。一瞬だったが仁王にはそれで十分だったようだ。ああ、ごめんね部長さん。私より仁王の方が、悔しいけど一枚上手だったみたい。痛いところを付かれて思わず動揺してしまうなんて、らしくない。


「…幸村に言っとけ。部活に戻っちゃるってな」
「え、」
「幸村はそれが目的なんじゃろ?」
「…そ、だけど…」


あんなに堅くなに嫌がっていたにもかかわらず。あっさりと部活をやると言い出した仁王。その瞬間屋上のドアがバン、と音を立てて開いた。と同時に幸村君が飛びだして入部届けとペンを持って出てきた。


「いやー、仁王ってば話が分かるね!」
「はー…」
「溜め息なんか付いちゃって、全くもう!」
「お前さんテンション可笑しいぜよ。落ちつきんしゃい」
「はいはい、さぁ今年も三連覇目指すよ!常勝ー立海!」


人の話聞いとらんし。とウザそうに部長さんの持っていた紙を受け取りながら呟く仁王。部長さんは今まで見せてた威圧感が嘘のようにふわふわしていた。てか部長さんって何者なんだろう。


「さて、ご苦労だったね、名前ちゃん。マネージャーになる手間が省けて良かったね!」
「…いえ、別に…」
「ああ、それと、名前ちゃんはもっと自由に生きた方がいいと思うよ」
「え、」


ニッと笑ってから仁王の書いていた紙を受け取りドアの向こうへと消えて行ってしまった。まるで嵐の去ったかのようにどっと疲れが押し寄せる。結局私が一番振り回されてんじゃないかこれ。


「…名前、お前さんもう嘘つくの止めた方がよか」
「…なんで?」
「似合わん」


そう言って私を一人残して屋上から出て行った仁王。なんだって言うんだ皆。私はすきで嘘をついてるんだ。自由に生きてるじゃない。似合うとか、似合わないとか、もう今更なのに。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -