04

「意味が分からん。離れろ幸村」
「ふふ、いつから俺にそんな口きくようになったの、仁王」
「うるさい」
「生意気だね、でもそんな事言われる筋合いはないよ。だって俺は名前の彼氏だもん」


部長さんの放った言葉に教室がまたざわつく。相変わらず私は抱きしめられたまま、彼の胸に顔を埋めて会話を聞いていた。こんなことするの初めてで、ちょっと心拍数が上がってる気がする。が、相手が相手だ。まだ恐怖の方が勝ってる。そんな私を落ちつかせる為かどうか知らないが頭を優しく撫でられた。逆に怖いけど。


「せい、いち君、恥ずかしい」
「…だそうだから、そろそろ二人っきりにさせて貰うよ」
「……」


正直自分の演技が気持ち悪すぎて吐きそうだ。が、これも仁王を出し抜くためだ。頑張れ私。部長さんに手を引かれ教室から出て行こうとした時、すれ違った仁王の顔がみた事無い表情だった。なんて言うか、言いたい事が上手く言えなくてもどかしいみたいな。そんな仁王のせいで少し動揺してしてしまった。つられて足が止まりそうになるも、部長さんに引っ張られているので転びそうになった。気にせず進んでいく部長さんはご機嫌で怖いとしか言いようがないけど。


「何処に行くの?」
「二人っきりになれる所」


おいおい、まじですか。二人っきりって言われても私困るんですけどー。部長さんの背中に向かって呟くと、会議室に向うからね、と返された。何するつもりだ。


「君が思ってるような事はしないよ。俺は君に興味無いからね。」
「私だってないですけど。」
「ふふ、面白いね。それはそうと蓮二たちが待ってるんだ。」
「蓮二?」


君は本当必要以上に情報を持たないんだね。くすくす笑いながら会議室の扉を開けて部屋に入る部長さん。中に入ると背の高い人が二人。この間見かけた黒い帽子の人と、なんとなくどこかで見かけた事のあるような糸目の人。


「やぁ、おまたせ」
「遅かったな、精市」
「大方その子と付き合ってるんだとでも言って来たんだろう?」
「あはは、蓮二大正解」


紹介するよ、と私の方を向きながら黒い帽子の人と糸目の人の間に立って肩に手を置く彼。


「データマンの柳蓮二と副部長の真田弦一郎。こう見えても君と同じ年だから。」
「一言余計だ」
「この一言が必要な確率は90%を超えているがな」
「む」


黒い帽子の彼、真田君?はぐっと言葉を飲むようにして押し黙った。対する糸目の人、柳君?はついでに精市も同じ年だ。と私にむかって…え、同じ年なの?敬語で喋ってたじゃん。


「まぁそんな事は置いといて、報告するよ」
「あぁ、頼む。」
「短くざっくり言うと俺と彼女は付き合ってるってことにした。仁王の反応はまぁまぁかな。」


真田君は溜め息をついて呆れているような感じだった。なんでそんな嘘をつく事が仁王を部に戻すことにつながるのか分からんって顔してる。全く同意だよ。柳君は想定内だと言わんばかりに頷いてる。今後の展開も分かってるのかな。ぜひ聞きたい。


「さて、彼女と弦一郎が全く分かって無い様だから説明してあげるね。」
「…あぁ」
「つまりこういう事、」


きゅ、っとホワイトボードに書かれて行く文字に絶句した。仁王が名前にコンタクトを取りに来る→名前が仁王にマネージャーになると言う→仁王部活に入る


「意味が分かりません」
「すっごくわかりやすく書いたのに」
「まず私がマネージャーになるってどういう事」
「そこで仁王に刺激を与えるためだけど?」
「意味が分からん」


何刺激って。意味が分からん。めんどくさいなぁ、みたいな溜め息を付かれたけどこの際どうでもいい。彼女になるっていうのは理解した。けどそれ以上の事なんて聞いてない。


「だから、仁王が君の事を気にかけてるのを逆手に取るんだよ。」
「気にかけてる…って」
「どういう訳かは知らないけど、そのくらいは君も知ってるでしょ?」
「…まぁ、それは知ってますけど…」
「大方君の歪んだ感情をどうにかしてあげたいとか考えてんじゃない?」
「歪んだって…幸村さん…」


ごめんごめん、とまるで悪いと思って無さそうな笑みを浮かべる。やっぱりこの人は怖い。どこまで分かって言ってるのか知らないけど、多分なんとなく分かってるんだろうな。人に愛されたいって言う、みんなより少し強い気持ち。


「つまりは私で仁王を釣るんですか?」
「そ、だから君には一時的にで良いからマネージャーになって貰いたい」
「…めんどくさいです」
「けど?」
「面白そうなので付き合います」
「そう言ってくれると思った」


怪しげににっこり笑った部長さんに頭を抱えていた真田君。私もそうしたい。…けど、今の私はわくわくしている気持ちの方が勝っていた。


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