02



「はじめまして、こんにちは。突然呼び止めてしまいすみません。私、柳生比呂士と申します。」
「ご丁寧にどーも。」
「貴方を呼んだのは、仁王君のことをお聞きしたかったからです。」
「お聞きしたいって私そんなに仁王の事詳しくないんですけど。」
「変わりに仁王君の過去をお話しいたします。」


何こいつ耳付いてんの?とか言いかけそうになったけど、グッと押し黙る。最初に感じた良い人な感じはほとんどなくなっている。変わりに仁王みたいな雰囲気を匂わせている。マジなんなのこいつ…。


「我々テニス部には、仁王君が必要なのです。」
「…だから?」
「しかし仁王君は戻りたくないと言っているんです。」
「じゃあもうほっといてやれば良いじゃん」
「退部は認めていません。」


なんなんだこいつ、話し通じないんだけど…誰か通訳呼んできて。そう思わず叫びたくなる衝動にかられつつもぐっとこらえ話を聞いていくと、どうやら仁王は中学の頃テニス部で全国大会までいった実力の持ち主だったらしい。でも、全国大会の決勝で不二と言う選手に負けてから様子がおかしくなったそうだ。


「…そこで貴方にお願いがあるんです」
「は?」
「仁王君をテニス部に連れ戻して欲しいんです」


意味が分からん上に話が変わってきている。さっきはただ、話を聞かせて欲しいって言っていただけなのに。さてはこいつ、最初からこうするつもりだったか?甘く見てたな。仁王の友人にろくな奴なんて居ない。類は友を呼ぶって奴だ。


「条件を出してもいいかな?」
「ええ、私にできる事ならば。」
「連れ戻すまで仁王と私に干渉しないで」
「…分かりました。」


では、お願いします。と色々と指示を出している部長らしき黒い帽子をかぶった男子生徒に声をかけに行った柳生君。彼は分かってるのかなー。私が嘘つきだってこと。


「そんなめんどーな事する訳無いじゃん」
「って言うと思ったー」
「!!」


あは、と爽やかな笑顔でいつの間にか隣に立っていた少年に声をかけられた。いや、少年と言うには凄く綺麗な顔立ちで、一瞬女の子かと思うほどだった。お花でも飛ばしそうなふんわりとした笑顔に男子にしては少し高めの声に気を許してしまいそうだが…。なんだか彼は、凄く怖い。


「な、」
「こんにちは、部長の幸村です」


このひとが、部長?それは部長と言うには余りにも頼りないような見た目だった、が、彼の醸し出している何とも言えないこの威圧感に似た違和感がそれを納得させる。部長、と言う事はもしかして年上?この外見で年上?下手したら私より下に見えるかもしれないのに。


「君が嘘を付いて人を惑わしているのは知っているよ」
「はぁ…」
「仁王と敵対してるらしいね」
「敵対ってゆーか、まぁ。」
「立ち話もなんだから、ちょっとベンチ行こうよ。ついでに見学していく?」
「いや、入部希望じゃないですし」


そっか、と人の良さそうな笑みを浮かべた彼はそのまま目線をコートにそらし真剣な顔で口を開いた。


「俺はね、嘘は嫌いだよ。」
「…そうですか」
「うん。だからね、仁王も嘘をつくのは止めて欲しいと思ってた。」
「あいつから嘘付き取ったらなんも残らないんじゃないですか?」


私がそう言うと、そうかもなんて声を上げて笑う彼。くすくすとまだ笑っている彼だったが、でも、と話を切りなおし続ける。


「仁王のプレースタイルが嫌いな訳じゃないんだ」
「矛盾してますね」
「うん。自分でも思うけど、でも、嫌いじゃない」
「はぁ…」
「で、気がついたんだ。俺が嫌いなのは悪意のある嘘なんだって」
「………」
「嘘にも種類があるんだね」


そうですね、と静かに返した時、彼は私と向かい合い全てを見抜いていると言わんばかりの鋭い目線を私に向けてきた。思わず後ずさりしそうになる衝動を抑え込んで彼を見る。


「君がついてるのは、どんな嘘?」


その問いを聞かれた瞬間に私の足は校門の方向へと駆けだしていた。彼は追っては来ていなかったけど、思い出してしまいそうで、怖くてたまらなかった。

その日初めて、嘘を付いていることへの恐怖心を覚えた。


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