03
「先生、何故口を聞いてくれないんですか」
「………」
「先生」
私が訳もなくフルシカトするわけ無いでしょ、と言いたくなるがその言葉を飲み込んで睨んでやる。昨日、あの後何とか手塚君を帰して家に帰った私は放心状態だった。だって生徒にあんな事されたら誰だってそうなると思うの。それなのにコイツは…。次の日普通に話しかけて来るし、昨日の事なんて無かった事になってるみたいに振る舞ってくるし。散々悩んだ私が馬鹿らしいじゃない。そんな訳で私は彼をフルシカトしている訳です。でもそろそろ可哀想になってきたかな…。
「……自分の胸に手を当てて考えてごらん」
「フルシカトじゃなかったのか?」
「…気付いてたの?」
「先生の事ならなんでも分かりますから」
なにそれ複雑ー。と棒読みで言ってやれば鼻で笑いやがった。ムカつく生徒だな、ほんっとに。そう小言を言えばちょっと気に入らないことがあったからシカトなんて先生も大人気ないですね、と嫌みを返されてしまった。確かに彼の言うとおり、大人気ない。彼は言い返せずに言葉に詰まる私を見て楽しんでいるようで、意地の悪い笑顔を浮かべていた。
「腹立つ」
「俺は楽しいですが」
「手塚君が楽しくても私はつまんない。だからもうどっかいって」
連れないな、昨日あんな事をした仲だろう?
聞き慣れない低い声で囁かれたので思わず身体が小さく跳ねた。何が楽しいのかにやりと意地の悪い笑顔をまた浮かべる手塚君は本当に可愛くない。
「もういいでしょ、先生弄んで楽しい?」
「弄ぶ?それは違う。俺は至って真剣だ。」
「それはそれで問題だわ」
呆れたように息を吐いて通り過ぎようとすればどん、と鈍い音と共に進行方向の壁に彼のと思われる手が伸びていた。しかも目の前に。講義の一つでも上げてやろうと口を開けば、先に手塚君が講義を上げる。
「name、俺は真剣だ、と言ったはずだ。」
「…私は教師だって言ったはずよ」
「そんなの関係ない」
「ある。それに私は君を好きにはなれない。」
「何故」
「君がまだ子供だからだよ」
眉間にシワを寄せて黙り込む彼にざまあみろ、と心の中で悪態を尽き靴を翻し反対側に帰ろうとすれば手を思いっきり引かれ、思わずつんのめりそうになるもなんとか踏ん張り耐える。彼を睨みつけるとそれ以上に睨み返されたので思わず怯みそうになった。
「子供、だからか…上等だ。」
何かスイッチを入れてしまったようで、明らかにいつもとは違う彼の様子に全力ダッシュで職員室に逃げ込む私。他の職員に何事かと変な目で見られてしまったが仕方がない。昨日のような過ちはするわけには行かないのだ。なんとなくこの場はしのいだ物の後に酷いことが待っているような気がしたのは多分、気のせいでは無い。ここで黙って引き下がるような男じゃないのは何となく男に耐性が無い私でも分かる。
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