柳生


「入れ替わってくれ!一生のお願いじゃ!」
「仁王君の一生は何度あるんですか。」


お昼休み、いきなり仁王君に呼び出されたかと思いきや、そんな下らない事を言われてた。全くいい加減にして欲しいと思う。こんな風に入れ替わりを頼んでくるときは、毎度毎度、真田君や丸井君に文句を言われる。私だってそんなに暇じゃないんですから、いい加減にして欲しいと何度も伝えるのだが、そのたびに部活仲間と言う事もあり、最後には私が折れて引き受けてしまう。彼も本当に悪いと思っているのか否か、最近は頼まれる回数が少ない気がする。それでも、やはり頻繁に言われるのだが。


「冷たいのう。」
「…そろそろ服装検査の時期ですから、それについてプリントやらなんやらをやらなければいけませんし、生徒会の仕事だってあるんです。」


仕事熱心じゃの、なんて本当にどうでもよさげに呟かれても嬉しくないですよ。こうしている時間も本当は惜しいのですが、パートナーの悩みの為です。少しの時間くらい割いて差し上げますよ。


「そう睨むな、今日呼び出しをくらってしまってのう。」
「…変わりに行けと?」
「頼んだ」
「断ります」
「そこを何とか」
「冗談じゃないですよ…この間、本当に危なかったんですからね?」


そう、先日も同じ様な事を頼まれて女の先輩に会いに行ったのだが、会うなり押し倒され、危うくとんでもない過ちを犯すところだった。仁王君の女癖が悪い事はもう随分前から知っていた事だったので、多少の覚悟はしていたつもりだったが、甘かった。


「ベルト引き抜かれた時はもう駄目だと思いました…」
「…すまん…」


申し訳ないと言わんばかりの表情をする仁王君。本当にそう思っているのなら金輪際このような頼み事は控えていただきたいのですが。


「柳生、それとこれとは話が別になってくる。」
「なんでですか。」


そんなやりとりをつづける事数分、やはりいつものように私が折れて彼の言う事を聞くと言う形で治まり、今は仁王君の格好をして裏庭へと来ているという事だ。そして目の前にいる女生徒は仁王君の格好をした私に迫っている。


「…いい加減諦めてくれんかのう?」
「嫌よ雅治、どうして?」
「すまんのう、正直お前さんといるのは疲れる。」
「雅治…」
「さようなら」


冷たく言い放たれた言葉に相当なショックを受けたのであろう。女生徒は目に涙を溜め、走り去ってしまった。その後ろ姿にすみません、と一言小さく告げた後。戻ろうと靴を翻せばそこには苗字さんの姿が。


「なんか、意外」
「…何がじゃ?」
「柳生君がこんなことしてるの。」
「……何故、私だと分かったのですか?」


かつらを取りながらいつもの口調に戻せば、彼女はやっぱり、と嬉しそうに笑っていた。彼女は私のクラスメイトで生徒会のメンバーでもある。何でも器用にこなしてしまうような頭の良い人だ。そしてそんな彼女に憧れ、自分も生徒会に入った。こんな事言ったら仁王君辺りに大笑いされそうですが…。私が彼女に想いを寄せるようになるまで、そう時間はかからなかった。


「直感かな。後、謝ってたの聞いてたからさ」
「…そう、ですか。」
「私にバレちゃ不味かった?」
「そう言う訳じゃ無いですけど…」
「…けど?」


何となく、あなたに知られるのが嫌だったんです、なんて、そう言ったらあなたはどうするんでしょうか。優しいあなたはきっと困ってしまうでしょう。しかし、それを承知していても、言ってしまいたい衝動にかられていた。


「あー…柳生君?言いたくないならそれでもいいからさ、」
「いいえ、その、すみません。大した理由ではないのですが。」
「平気だよ。こっちこそ、ごめんね。」


どうやらもう、思いを抑える事なんて出来そうにないようだ。少し寂しそうに笑う彼女の手をそっと取ると、彼女は不思議そうに私の顔をじっと見つめてきた。


「こんな事をいきなり言うなんて、本当はいけないのでしょうね。」
「柳生君?」
「それでもいい。」


手に力が入ってしまったかもしれない。これじゃ紳士的とは、とても言えませんね。そして今から言う言葉も本来ならこんな所で言う言葉でも無い。私は、紳士なんかじゃないのかもしれない。


「名無しさん、私はずっと、ずっとあなたに想いを寄せていました。」
「…それは、告白?」
「…で、なければこんな事言いませんよ」
「だ、だよね。柳生君が冗談で言うはず無いもんね。」


やはり困らせてしまったようだ。ごめんなさい。名無しさん。困らせるつもりなんて無いんです。ただ、この思いを伝えたかった。ただ、それだけなんです。


「柳生君。」
「はい。」
「返事なんだけど、」
「…?」


彼女はそう言って、ゆでダコのような顔を抑えて俯いた後、目を瞑ったまま顔をあげてきた。これは、いい方向に考えていいのでしょうか、神様。これもまた、とても紳士的とは言えませんが、彼女の要望に応えて差し上げましょう。


きみが目を閉じたので


(とびきり甘いキスを)
(差し上げる事にしました)



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