仁王
私の知ってる仁王君は、人を騙したりするのが得意なモテ男。そして私の自慢の彼氏。……なのに、ここに居る彼は一体何者何だろう。
「に、におーくん?」
「なん、じゃ…?」
「ど、どうしちゃったの?」
「わ、からん。力がはいらん」
も、もしかして、と思いおでこに手を当てて熱を確かめれば、確かに何時もよりはるかに温かい。熱を計るように体温計を手渡して、大丈夫?と声をかけるもかなり辛そうである。幸いここは仁王君の家だったから、このままベッドに寝かせて安静にしておけば後は仁王君のお母さんが何とかしてくれる筈。
「におーくん、今日はもう私帰るね」
「い、嫌じゃぁ…」
「嫌って言われても…」
「…いかんで…」
普段有り得ないような台詞を涙目の上目使いで言われてしまった。もうくらっくらだ。完全にノックアウト。
「におーくん、でも、私が居ても何にも出来ないよ…?」
「いい、そばにおって?」
「…うん」
正直可愛すぎるんだがこの生き物。なにこれ、抱き締めたい!もうギューッと抱き締めたい!そんな衝動に駆られつつ、におーくんに笑いかけると移ったらごめん、と抱き締められた。
「にお、」
「雅治」
「…雅、治」
も、無理。その言葉を残し、ゆっくりとベッドへと押し倒された。彼、本当に熱があるんだろうか。案外元気なんじゃ、と思っていると、いつもより乱暴なキスが降ってきた。ていうか、この人もう移す気満々でしょ。
「ん、雅…移る」
「嫌?」
嫌じゃない、けど苦しいのはごめんだ。におーくん…じゃなくて、雅治が看病してくれるならまだ良いけど。
「看病する、だから、いい?」
…発情期?
なんてアホな考え方だと我ながら思うけど。本当に彼は限界、と言う顔をしていた。もう、具合悪いんじゃ無かったの?なんて声をかけるもこれと言って返事は無い。平気じゃ、なんて弱々しい声が返って来たような来てないような気がしないでもないけど。
「具合悪いなら止めれば良いのに、」
「無理、抑えきれん」
…やっぱり発情期?
そんな馬鹿な考えをぼんやりと広げて彼を受け入れる。首の後ろに手を回すとやっぱり彼は熱があるようで、汗ばんでいた。ていうか熱上がってきてないか?って、そりゃ上がるよね。でももう私もその気にさせられてしまっているので、今更止める事なんて出来る訳無い。
あとで、二人して怒られちゃうんだろうな。と考えつつ、雅治に体を委ねた。
胸がいっぱいで息ができません
(だから、いっその事)
(息ごとあなたにあげる)