幸村


「何してるの?」
「は?」


もう日が暮れて、部活動をしている生徒すらもう帰り始めるか帰り支度をしている時間だと言うのに、一人教室に残ったまま黙々と日誌と委員会の報告書を書いていた。全く災難にも程があると思う。今日は部活も無いので早く帰って録画しておいたお気に入りのドラマをまとめて見ようと思っていた所、運悪く先生に捕まった。何が“今日の日誌と委員会報告書書いといて”だ。委員会なんて書記にやらせればいいじゃないか、私普通のメンバーなんだけど。それに日誌だって今日の担当は仁王なのに。やつはどこに行ったんだ、オイ。などと文句を溜めて行きながらも日誌と委員会報告を書き終わった。全く、誰か盛大に私を褒めて欲しいものだね。誰も残っていない教室を見渡しながら大きなため息を吐きだしてペンを机に投げた。と同時に後方の教室の扉が開き声をかけられた。反射的には?なんて言ってしまったが別に問題はないか、と気を抜いて謝ろうとした瞬間、目に入ったのは紫がかった特徴的な髪にヘアバンド。そして肩に掛けたジャージに黒色のパワーリスト。そんな風貌をしているのはこの学校に通っていて知らない者はいないと言うほど有名な我が校テニス部部長、幸村精市君しかいない。大変だ。何が大変って、そんなの分からないがとにかく彼の纏う雰囲気が何人たりとも決して逆らわせないと言わんばかりの物なのだ。逆らえば命わないと言われるほどのオーラを出しているなどと噂されていたが、今身をもって感じた。まさにその通りである。只者じゃない雰囲気を出しているのは間違い無い。そして今尋常じゃ無いほど身の危険を感じているのも間違いじゃないはず。全身の筋肉が硬直し嫌な感じの汗が大量に噴き出してきているのが分かる。ヤバいぞ、これは。あの幸村君相手に、は?なんて言ってしまった数秒前の自分を呪いたくなった。と言うか叩きのめしたい位に後悔している。とにかくこの何とも言えない雰囲気をなんとかせねば。


「えーと、ご、ごめん…幸、村君。今、先生に頼まれて日誌と委員会報告書書いてたんです。あ、でももう終わったんで!これから帰りますので!」
「あ、ああ、そうなんだ。お疲れ様」


なんかやけに説明口調になっちゃったけどまぁ良いか。て言うかめっちゃ引いてないか、幸村君。もっと“俺に向かって何言ってんの?土下座しろよ”位言われるかと思ってたのに。全然ふんわりしてて優しい感じじゃないか。魔王とか暗黒の帝王とか言うのはただの噂だったの?


「えっと、日誌ってもしかしなくても仁王の、だよね?」
「あ、うん。そうだよ」
「やっぱり。仁王ね、なんかすっかり忘れてたみたいで。ごめんね?後で仁王からも言っておくよう伝えるね」
「全然いいよ、いつもの事って言うか、慣れてるし!」


良かった、とふんわりと笑った彼はアイドルのようだった。誰だよ、魔王なんて言い出した奴。安心して私も笑い返すと幸村君は私の顔をじっと見つめて来た。え、なんですか?私なんかまずいことしたかな?


「さっきの怯えた顔も好きだけど、笑った顔の方がやっぱり好きかな」


そんな爆弾発言をいきなりかまされた私は、ただただぽかんとするだけでその意味を直ぐに理解出来なかった。とりあえずやっぱりムカついてたんだろうなって事とそんな私を見てにっこり笑った彼が噂通りの人に見えたってのは間違いないと思う。


エンディングを迎えたようです。


(はは、その顔もいいね)
((…嫌な予感が止まりません))




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