その5 [ 5/14 ]

届けに行きましょう。



大好きな片思いの彼、蓮二君に元気づけて貰った金曜日。すなわち昨日。蓮二君と別れてクラスに戻った時に丸井にお礼を言ったら土曜日に練習試合があるからお弁当付きでガムを奢ってくれと言われました。機嫌が良かった馬鹿な私は素直にうんと頷いてしまったのです。なんてバカな事をしたんでしょうか。元をたどれば私の落ち込みは丸井のせいでもあったはずなのに。数分前まではしっかり覚えていたはずなのに。まぁそんなことどうでもよくなるくらい浮かれていたんでしょうね、私。だってあの蓮二君が私の為に屋上まで励ましに来てくれてあろうことか一緒に教室まで帰ってくれたんですもん。それによく考えてみれば丸井の部活、蓮二君と同じテニスだし、蓮二君にもお弁当を渡せるチャンスだって考えればいいです!


「と、言う訳で来てみたはいいんですけど、丸井君。」
「なんだよぃ」
「君、お弁当持って来いって言ってたよね?」
「言ったけど?」
「何故試合が午前のみなんだい?」
「だからなんだよ」


だから何じゃねーよ、この豚が!こっちは朝早く起きて弁当作って来てんのに午後からオフって何だそれ。弁当いらねーじゃん。自分がバカみたいなんだけど。どうしてくれんのこの何とも言えない虚しさ!


「だからお礼にくれって言ったじゃん。午後練あるとかないとか別にかんけー無いだろぃ?」


と私が言えばそんな事を言ってきましたこの豚。俺の為のなんだから、って違うよ丸井君。全然違う。関係大アリだよ。寧ろあんたがおまけだよ。私は蓮二君に食べて貰いたくてここまで来たんだよ。元々はあんたのせいなのにわざわざ私があんたの為だけにお弁当作るなんておかしいじゃん。
と帰ろうとすれば丸井君が腕に絡みついてきました。女子かお前は。


「別にいいだろぃ?練習見に来たおかげで柳も見れたんだし。その分も俺からのプレゼントっつーことで弁当とガムくれよ!」


もうストック無くてやばいの。と必死に頼み込んでくる丸井君の横を私の天敵仁王君がなんだかにやにやしながら通り過ぎて行った。うざいなぁ、あの笑顔。て言うか仁王君の笑顔って嫌な予感しかしない気がするのって私だけ?なんて考えは的中してしまった。丸井が腕に絡まってる状態を蓮二君に見られてしまったのだ。ちらりと言った風にこちらを見た蓮二君は一瞬だけ眉にしわを寄せながらこっちへと向かってきた。え、な、なんでこっちに向かってくるの蓮二君。しかもなんか機嫌悪くないですか。もしかして私と丸井君がくっついてるの見てやきもちやいてくれたとか…?!


「そんな訳無い」


…ですよねー。ものすごーく不機嫌な蓮二君は私の話を聞き終わる前にそう言って丸井君の方へ向き直る。なんかすっごく怖いんだけど蓮二君。どうしちゃったの?


「丸井、最近体重の管理を怠っているように見えるのだが」
「は?な、何言ってんだよ!」
「これは精市からの伝言だ。それにデータでも最近スピードが落ちて来ていると見れる。食事制限をしなければならないような事は出来るだけ避けたいだろう?」
「…く…。でもガムくらいならいいんじゃね?」
「ガムならまだしもさっき弁当を食べただろう。それなのにまた弁当を食べるなんて…。いくらなんでも食べすぎだ。」


え?お弁当?今蓮二君、お弁当って言った?なんだ?じゃあ、もしかして…!


「蓮二君、もしかしてだけど、お弁当は…?」
「もう食べた」


そ、そんなー!!そんなの、そんなのあんまりじゃないか…。ご飯食べたなんて聞いてないし、ご飯が出るなんて聞いてないよ!どういう事だ丸井。あんたまさかご飯出るの知ってて弁当持って来いなんて言ったんじゃないでしょうね?そうだったら本気で怒るからね、君。


「いや、なんて言うか、その、ごめん、苗字!」
「問答無用。弁当は没収。」
「ひ、ひでえ!じゃあ礼は!?」
「元を辿ればあんたのせいでしょ、無し!」


最悪だあああ!と頭を抱える丸井君。いや、もうこの際丸井でいいや。読み方はもちろんブタで。…て言うか本当何やってるんだろう、私。丸井なんかのためにこんなとこまで来て、お弁当作って。肝心の相手は私が何してようとお構いなしって感じだし。て言うか昨日、蓮二君は練習試合があるなんて一言も言って無かったなぁ。別に私に来て欲しかった訳じゃないだろうし、言われなくて当たり前だけど。


「…それから丸井、幸村が呼んでいたぞ。さっきの試合の事で話があると言っていた。ダッシュで来なければ食事制限だそうだ。」
「それ速く言えよ!柳!」


蓮二君の口から紡がれた言葉を聞いた丸井は普段じゃ想像できないくらいの速さでコートの方へ駆けて行った。幸村君にぽかりと叩かれている丸井をぼんやりと見ていたら、蓮二君が私の顔を覗き込んできた。


「…名無し、本当は丸井が好きなんじゃないのか?」
「…はぃ?」


真剣な顔でそんな事を言ってくるものだから覗き込まれた驚きを声に出せなかった。と言うか言われた言葉が衝撃的すぎて吹っ飛んでしまいました。何を言ってるんだ蓮二君。


「丸井とは仲が良い様だったからそうかと思ったんだが、違うのか?」
「蓮二君、何度も言いますけど、私が好きなのは蓮二君ですから!丸井とは同じクラスで席が隣なんです!別に仲いいとかじゃないですよ!丸井は誰にだってあんな感じです!」
「知っている」


私が必死に誤解を解こうとしているのが可笑しかったのかくすくす笑いながらそんな事を言ってる蓮二君を見てたら無性に腹が立ってきた。くそう、なんだって言うの、蓮二君。


「ちょっとからかっただけだ」
「虐めって言うんですよ、それ」
「それは知らなかった。データに加えておこう」


うそつき。本当は知ってるくせに。きっと私が必死に弁解する事も丸井との仲も全部全部お見通しなんでしょう?データ通りな反応な私を見て笑っていたんでしょう?でも私だって蓮二君の事知ってるんですよ。


「ほう、俺の何を知っているんだ?」
「例えば私が今お弁当を二つ持っている事とか、ちょっと落ち込んでる事とかお見通しなんですよね?」
「よくわかったな」
「それで私が知ってる事も知ってるんですよ、意地悪です」
「そこまで分かるなら俺が今何を考えているかもわかるんじゃないのか?」


意地悪な笑顔を浮かべながら蓮二君は私を見た。なんとなくわかってしまった気がする。と言うかそろそろ来るかな、と思っていたとこだし自分でも思っていたところだ。


「…分かってますよ、もう帰ります」
「…ハズレだ。そうじゃなくて、ほら」


と言って差し出された手に意味が分からなかった。なんですかこの手、と聞けば仕方ないな、と言った風に溜め息と同時に指をさされた。


「弁当二人前を一人で食べるつもりか?太るぞ?」
「あの、言葉がとげとげしいんですけど」


なんてつい突っ込んでしまったけど嬉しくて仕方ないです。


食べて欲しくて作ったんだろ?食べてやる



(って事ですよね?)
(分かってるなら早く貸せ)


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