その12 [ 12/14 ]

避けてみましょう。



あの日から随分と日にちがたった今日は本当ならば蓮二君との勝負がついているはずの日であった。そのせいもあってか、なんとなく気分が乗らず、授業を抜け出して屋上へとやってきた。まぁ、つまりサボりと言うやつだ。でも今日ぐらいは許して欲しい。


「もう、関わらないで欲しい。」


いや、実際はこんなズバッと言われた訳じゃないけど限りなくこれに近い事を言われてしまった私は、あの日以来、もう蓮二君の事を見ていない。彼も私を避けているのか、一度も会っていない。丸井も何も言ってこない所を見ると、恐らく蓮二君が話してくれたんだろう。もう、本当に終わってしまったんだ、と後ろのドアにもたれかかる。


「我ながら馬鹿だよなー…」


ぽつりと呟く声は酷く情けなくて、悲しくなった。諦めない、と言ったはずだったのに。2週間前の自分は諦めるつもりなんて毛頭も無かったのに。


「元から無理な賭けだったんだから。」


そう言い聞かせる事数日間。ようやく諦めがついたのだろうか、辛いと思う事は減ってきた気がする。…いや、そんな事無いかも知れないな。そんな簡単に諦められる程、簡単な思いなんかじゃなかった。彼が嫌がっていると知りながらも思い続けてしまう。仕方ないじゃない。本当に好きだったんだから。


「…人の憩いの場を重苦しい雰囲気にするのは止めてくれんかのぅ」
「仁王君か…」


給水タンクの上に座っている彼を見て、溜め息が出た。正直会いたくない人物の一人だから。


「お前さんはいつもそうナリ」
「何が?」
「俺と会うときはいつも最悪って顔しちょる」


頬づえをつきニコニコとする彼が腹立たしくて仕方がないんだけど。なんで最悪って顔するって?そんなの仁王君がいつも私の嫌な事するからに決まってるじゃん。私が言われたくない事とかすっごく言って来るんだもん。心の広い私でもさすがにいらっとくるよ。


「意外に元気そうじゃのう」
「なによ、意外にって。」
「参謀に振られてもっと落ち込んどるかと思っとった」
「そう言う所が嫌いなんだって。」
「お前さんのしつこい所と一緒で俺にとっての短所って事か?」


それ、わざわざ言わなくていいと思うんだけど。下品に笑う仁王君に腹が立ったので給水タンクに向かって一蹴りしてやった。


「怖いナリ」
「死ねばいいんだ、仁王君なんか」


靴を翻して屋上から出て行こうとした時、後ろから手をひかれた。手を引いた犯人は仁王君だった訳だけど、君瞬間移動でもできるの?さっきまで給水タンクの上にいたよね?


「細かい事は気にしちゃいかんぜよ」
「…あっそ。で?何かな、仁王君?」
「…お前さん、まだ参謀の事好きなんか?」
「……」
「答えろ、名無し。」


なんでそんな事君に言われなくちゃいけないんだ。キッと睨みながら言えば、微かに腕を掴む手がきつくなった。


「参謀が、変じゃ。」
「…変って何が?」
「お前と会わなくなってからテニスに集中出来てない。」
「…勘違いじゃない?」
「皆言っちょる。」
「…私にどうして欲しいの?柳君とはもう会わないよ。」
「なんで」
「…関わらないでくれって言われたからに決まってるじゃない」


更に腕を掴む力が強くなる。そんな事言ったって、どうしろって言うの。向こうから関わらないでって言って来たんだよ?もう私にはどうする事も出来ないじゃない。


「前のお前さんは諦めろって言われたから、諦めるような奴じゃ無かったぜよ」
「仁王君には関係ないでしょ」
「ある」
「…っ、なんであるのよ!」


ある。そう言われて身体が強張るのを感じた。手を振り払い聞き返すも、仁王君は口を開かなかった。


「なんで、黙るの」
「…参謀は、お前さんの事、きっと好きじゃ」
「…は、」
「嘘だと思うなら、聞いてみればいい。」
「…無理だよ…会えないって言ったじゃない、」
「逃げるな」


見透かしたような彼の目が、私を捕える。なんで仁王君にそんな事言われなくちゃなんないんだ。関係無いじゃん。仁王君には。睨み返したままそう言うと視線を外しながらぽつりと呟く。


「お前さんが、幸せになんないと困る奴もおるっちゅー事じゃ」
「…意味分かんないよ、」
「良いから行きんしゃい。参謀は今図書室にいるはずじゃ」
「なんで…」
「つべこべ言ってないで、腹くくりんしゃい。」


はいはい、行った行った。とぐいぐいと屋上から追い出されてしまった。どういう事。全く意味の分からない状態で会話を強制終了させられてしまった。


それじゃ分からない、よ



(…本当は少しわかってしまった気もするけど)
(私の足はもう彼の居る場所へと向かっていた。)
((ごめんね、ありがとう。))


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