その11 [ 11/14 ]

喧嘩してみましょう。



「蓮二くん、放して下さい、」
「この前まではそっちから抱きついてたのに、変な奴だな」
「自分がするのは平気なんですよ」


蓮二君から離れようともがくも彼は笑って放してくれない。本当頭でも打ってんじゃないか?


「名無し、」
「はい?」
「ゲーム、もう止めないか?」


自分でも身体が固まったのが分かった。どうして、いきなりそんな事。


「このゲームのせいで、お前が傷付いた事は明らかだ。」
「…でも、」
「今までも配慮していたつもりだったんだが、甘かった。」
「配慮って…そんなの良いですよ、大丈夫です、わたし、」


良くない、と目を伏せた蓮二君。ゆっくりと身体を離して、向かい合う。
今まで私の為に色々してくれていた事は薄々気づいていた。女子から圧倒的な人気を誇っている立海テニス部のレギュラー陣。そんなみんなと仲良くしていたら必ず誰かが疎ましく思うに決まっている。にもかかわらずこれと言って酷い嫌がらせは受けてこなかったのは、蓮二君が何かしらしてくれていたのだろう。


「名無しも、もう怖い思いはしたくないだろう。」
「…そんな事無いです。」
「嘘はいけないな、名無し。」
「可笑しい、蓮二君。どうしていきなりそんな事言うんですか。」
「可笑しくなんかない。いい機会だと思って、言ったまでだ。」
「いい機会?なんですか、それ。」
「初めにも言っただろう、諦めろ、と。」


なんだそれは。全く飲み込めない。状況を整理させて下さいよ、蓮二君。微かに震え初める指先を必死に押さえつけながら蓮二君の話を聞く。


「迷惑だったんだ、ずっと。お前がいると自分のやりたい事が出来なくなって。」
「…ずっと、そう思ってたんですか、」
「…あぁ。」
「じゃあ、どうして私を助けたんですか。なんで期待させる様な事、」
「襲われたと知って、そのまま放置できるほど非情じゃない。」


頭が真っ白になった。迷惑だった。嘘だよ、そんなの。だって本当に迷惑だったらもっと前に諦めさせることだってできるじゃない。蓮二君なら簡単でしょう、そんなの。それに、本当に迷惑だって言うなら、なんで今抱きしめたりしたの?


「お前を落ち着かせる為だ。」
「…何、それ…」
「深い意味は無い。期待させてしまったのならすまない。それから、諦めさせる、と言う事については何度も言ってきた。」
「そ、れは…」


確かに、蓮二君は今までに何度も諦めろと言っていた。でもそれはそんなに本気で言っているようには聞こえなかったし、いつものやり取りの中にあるものだったから、本気でとらえていなかった。


「俺はお前から諦めるのを待っていたんだが、無理そうだったから今言った。それにまた怪我をされては責任をとれないからな。」
「……」
「期待させる様な事をしてしまったのは謝る。」
「…っ」
「本気で言わなかった俺にも非がある。」


止めて。もうそれ以上言わないで。蓮二君の口を封じるか、それとも今すぐここから逃げ出してやろうか、なんて考えるけど、考えるだけで身体はうまく動いてくれない。


「すまないな、これが最後だと、付き合ってやると言ったのに。嘘になってしまった。」
「…いえ、」
「お前が傷付かない為でもあるんだ。」
「…、」


そうですね、なんてとてもじゃないけど言えなかったし、言いたくなかった。
迷惑だってことは、知っていた。でも本当に嫌われているんじゃないと思っていたし、なんだかんだいって、私といるのを楽しんでいてくれているものだと思っていた。でもそれは全部勘違いだった。彼の何時に無く真剣な瞳がそう語っていた。


「もうじき皆が来る。さっきも言ったが、後の事は心配しなくていい。」
「…だから、もうこれ以上関わるなって事ですか…?」
「…あぁ、」


パンッ、と乾いた音が狭い空間に響き渡る。その音は、私が彼の頬を平手打ちした音。


「…ごめんなさい。でも、もっと早くに言ってくれても良かったと思う、」
「あぁ、すまないと思ってる。」
「…今まで迷惑かけてごめんなさい。もう、関わらないようにする。」
「……宜しく」


もう何もかも終わってしまった。彼のその一言で。
宜しく、なんて、酷い事言うよね、蓮二君。そんなの無理に決まってるのに。私が必死になって頑張ってきた物は、全て空回りしていた物だった。それも想像以上に。本当、最悪だ。平手打ちをした手が凄く痛かったけど、胸の痛みの方がずっと重い気がした。あまりの苦しさに思わずその場から逃げ出してしまった。反対側の歩道に幸村君たちを見かけたけど、もうそんな事はどうでもよかった。


さようなら。蓮二君。



(何もかもどうでもよくなってきた。)
(この虚無感をどうにかしてよ。)


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