▼お願い、白紙に戻して


うるさいなぁ、と目覚ましを止めたのが5時前。今日は軽音の朝練があるからいつもより一時間も早い。もう幾度も朝練を経験しているけど、やっぱりこの時間に起きるのはなれないなぁ。眠気と格闘しながら愛しいお布団と別れを告げた私は、早々と支度を済ませ玄関を開けた。と、同時にあまりの寒さに思わず家に戻りたくなる。何この寒さ。こんな寒かったっけ?心なしかいつもより早足になってしまうのも仕方ないよね。だって寒いんだもの。ああ、こんなことならマフラー持ってくればよかったかも。ギターあるし荷物になるかもって持ってこなかったのが間違いだった。この寒さ侮るべからず。忘れ物ついでに寝癖直すの忘れたけど、もう別にいいや。学校に着いたら直そう。うん、そうしよう。
ハーっと吐いた息がくっきりと白くなるのを見て改めて外の寒さを実感する。いくら部屋が暖房ついてたからってこんなに寒く感じるものだろうか。とにかく早く学校いこう。きっとこの時間に行っても暖房なんて文明機器は付いていないんだろうけど。風を防げるだけで十分暖かくなれる気がする。
より一層早足で向かった学校が見え始めた頃。ぱこーん、ぱこーん。とテニスコートから聞こえる音。まだ6時だっていうのにもう来てる人居るんだ。少し気になって覗いてみると、なんだか見覚えのある子。黒髪にピアスが五個。誰だっけ。思い出している内に相手に気付かれた様で声を掛けられた。


「何見てるんですか」
「いや、別に。通りかかっただけ」
「ジロジロ見すぎっすわ」


そんなじろじろ見ていただろうか。気が散るからさっさと行ってくれと怒られた。生意気な。あ、思い出した。この子、白石の後輩だ。よくクラスに連れてこられては白石と忍足にいじられてる子だ。何回か喋ったことあるけど、生意気なのがすごい印象的だった。


「…早う行って貰ってええですか」
「だが断る」
「はぁ?」


何なんあんた…という目で見られたけど屈しない。白石も大変だなぁ。こんな生意気な後輩持って。なんかちょっとムカついたから弄ってやろうか。


「白石は?まだ来ないの?」
「…あんたも部長の追っかけなんすか?せやったら本気で帰って下さい。邪魔っすわ」


さっきとは全く表情が変わり、本気で言ってるのが伝わってくる。あぁ、なんだ。この子割としっかりしてるじゃないか。追っかけが白石にとってどれだけの負担になってるかちゃんと理解できてる。案外、ただの生意気な後輩って訳じゃなさそうだ。


「ごめんごめん。追っかけってつもりじゃないよ。ただ通ったから挨拶しようと思ったんだ」
「…どっちにしろ部長はまだ来てへんし、俺の邪魔になるんやけど」
「そうなの?残念。じゃあ忍足も来てないんだ?」
「謙也さんならおりますけど」


あ、謙也は居るんだ。部室に、と付け加える彼を見ながら心の中でそう呟いた。まぁ、浪速のスピードスターとかなんとか言ってるし、朝練とか一番に来る人なんだろうな。あれでいて真面目だし。と、噂をすれば何とやらで部室の方向から金髪の髪が揺れるのが見える。こっちに気づいたのか走って向かってきた。君はこの寒いのに短パンで走り回って凄いな。まぁ、彼もそうなんだけど。とりあえず走ってきた彼に挨拶をするといつもの笑顔で挨拶を返してくれた。不思議そうに首を傾げる生意気な彼。おお、なんかその仕草可愛いな。


「先輩ら知り合いっすか?」
「はぁ?何言うてんの、こいつクラスメイトやろ」
「や、先輩のクラスメイトとか知らんっすわ」
「せやけど、財前は話した事あるやろ?」


その言葉を聞いて目を丸く開いて驚く彼。まるで見に覚えのない、といった表情がまるわかりだ。そこまで分かり易い表情をしてくれるのも珍しいよ。しかしそこまで反応があると悲しい。一発で覚えられないくらいのインパクトか。どんだけ影が薄くなっているんだろう。もっと自己主張するべきかな。いや、自分の後輩でもないのに自己主張とか恥ずかしい。





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