▼ある日の昼下がり


緩やかに時間が過ぎる昼下がり。雑誌を見ながらソファに座っていると、精市はコーヒーを片手にご機嫌な様子で隣に座る。私の視線に気づいた精市はコーヒーいる?と聞いてくれたが、特に欲しい訳じゃなかったので、要らないと返して再び雑誌に目を通す。が、精市の視線は元に戻らず私の方を向いたままだった。不思議には思ったけど、聞くほどの事でもないかー、と適当に考えて雑誌に集中しようとするが、なんかこう、じとっと見られると気が散って仕方無いんですけど。


「なにさ、精市ー?さっきっから私の方ばっか見て。そんなに私の顔が好きなの?」
「好きだけど?」


思わず口が半開きになったまま彼の目を見る。冗談のつもりだったのに、と笑えば俺はいつだって本気だよ。なんて返してくるものだから笑顔は固まってしまった。いや、なんだってそんな言葉を返してくるんだ、精市くん。


「name、好きだよ」


い、…いやいや!なんだこの唐突な甘い雰囲気は!不意討ちに体温が上がるのを感じる。特別な日でも無いのに何でこんな急に、そして至近距離で言ってくるんだこの人は。最早悪意を感じる。何を考えてるんだ、精市。正直に言いたまえ!


「好きだよ」
「…いや、正直にって、そう言う正直にではなくて、」
「好きだよ」
「う、あ、」


背中に腕を回され抱き締められる。可笑しい。精市が可笑しい。どうしてこうなったのか、私には理解が出来ない。取り敢えず同じ様に背に腕を回せば、彼の頭が首に埋まってきて思わず肩を震わせてしまった。ああ、これ以上の行為など幾度もしてきたのにまだ慣れない。一生かかっても慣れる気などしないけど。



「精、市?」
「…好きだよ」
「…どうしたの?」


何かあったんだろう。けれど、彼は其れについては何も言わない。別に、今日だけの事ではないのだけど。精市は何かあっても何も言わない。私にはそれが悔しくて仕方無いんだ。それなのに彼は頑なに、口を閉ざしたままだ。


「精市、何があったか知らないけど、私は精市の傍に居るからね」


それだけしか、できなくてごめんね。自分でも驚く位弱々しい声が出た。精市はそれが可笑しかったのか、それとも私のセリフに笑ったのか…あるいはそのどちらもか分からないけど、少しだけ笑って嬉しい、と言って笑った。






(眠くなってきた…)
(本当、精市は自由だな…)


***
12.12.13
リクエストありがとうございました!
甘いのは何年経っても慣れる気がしないですね…。




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