▼こんな声であの人を想うのね


ずっと、好きな人がいた。
ずっとずっと、好きだった。片思い、って奴をしていた。臆病な私は、虐められるのも嫌われるのも怖くて、彼と話す事すら出来なかった。唯一会話したのは初めて会った、中学生の時の入学式。人ごみに流されて携帯を落としてしまった私は、半泣きで携帯を探していた。しかも買ったばっかりの新品だったものだから、余計にショックだった。両親に連絡を取ることも出来なくなって、パニックになりかけていた時、柳くんが携帯を拾って持ってきてくれたのだ。その時は感謝と安心感から泣きながらただひたすらにお礼を言い続けた。当然の事をしたまでだ、と言って笑う柳君はすごく素敵で、一瞬にして心を奪われた。臆病な私だけれど、それから何度かお礼を言おうと試みた。が、一年生で部長になってしまった幸村くん、先輩だろうと容赦なしの真田くんと一緒に行動している柳君は、私とはあまりに違いすぎて、取り巻く女の子達との差に絶望しながら何も出来ずただ横を俯きながら隠れるようにして歩いて行く事しか出来なかった。


別に、いいの。私と柳くんには埋められないくらいの差があるんだから。話をする事も、近づく事もできなくって当然。当たり前のこと。そう思う反面、本当はもっと近づきたい。できれば、話したい。柳君を独り占めしたい。なんて勝手な欲望がどんどん大きくなっていって、どうしようもなくなっていた、そんなある日。


柳くんに、彼女が出来た、らしい。


そんなの噂でしょ、信じるだけ馬鹿馬鹿しいよ。嘘だ、そんなの嫌、だって私まだ、何にも言ってないのに。胸の内側がざわついて、頭の中は信じたくない気持ちと、後悔と、悲しみでいっぱいだった。嘘だ、そう言ってよ。誰でもいいから、誰か。


ああ、昨日から付き合っているんだ。


偶然聞こえてしまった会話。その言葉を聞いて騒ぐ周りの友人。同じ様に、柳君を好きだった、女の子。ああ、なんだ。本当だったのか。泣きそうな自分を、どうすることもできなかった。ただ、ひたすらに言い訳を考えていた。意味もなく、ただ自分の心に冷静さを取り戻すための、自分に対する嘘。


好きなんて、もともと言うつもりなんか無かったんだ。
ほんとは言いたかった。好きになって欲しかった。
いいの、別に。
全然よくない。
勝算なんて0に等しかったんだから。
やってみなくちゃ分からない。
いいのよ、これで。
これで、良かった?なら、どうして今泣いてるの。


咄嗟にトイレに駆け込んで、声を押し殺して泣いた。繰り返される自問自答と、彼と学年でも有名な可愛くていい子の寄り添う、幸せそうな風景が頭の中をぐちゃぐちゃにしていた。なんて物を見てしまったのだろう。なんて事を聞いてしまったのだろう。ああ、もう手遅れだ。何もかもが手遅れ。今更告白したって、もう遅い。そんな行為はなんの意味もないからだ。これこそ、勝算は0。


そして、思い出してしまった。入学式の時、柳君と一緒にいた女の子。泣いてしまった私をなだめてくれた優しい、とってもいい子。あの時の女の子が、あの子だった。柳君に寄り添う、女の子。声が漏れるのを必死に我慢して、泣いた。ただひたすらに泣いた。馬鹿みたい。柳君はきっと、ずっとあの子を好きだったんだ。あの子もずっと、柳君を好きだったんだ。二人で、私の携帯を探してくれたのだ。私の携帯を、二人で。私はライバルの背中を押していたのだ。あれがキッカケだとしなくとも、二人の仲は縮まったはずだ。ああ、もう馬鹿みたい。端から、最初から私の入れる好きなどなかった。勝算なんてものは、存在すらしなかったの。そんな事にすら気づかなかった愚かな私。救い様なんてないわ。


あんなに可愛い子に勝てるはずない。私なんかが勝てるわけない。あんなに優しくていい子に勝てるはずない。私なんかが、勝てるはずない、のに。柳くんが、あの人が、あの子の名前を呼んで、笑いかける。たったそれだけの行為で、私の胸は引き裂かれたかの様な痛みが走る。仕方ないと思っているのに、認められない。認めたくない。信じたくない。こんな事ってあるの?どうしてこんなに意地悪なの、神様。


ああ、こんなにも、こんなにもあなたが好きなのに、あなたは違うのね。なんて、そんな事分かり切っていた事。だけど、納得なんてできなかった。できるはずなかった。脳内で繰り返されるさっきの場面。ねぇ柳君、あなたは、





(知りたくもなかった。そんな事。)





***
12.01.30
良くある事、故に痛くひどく冷たい。

お題 hakusei様より



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