幸村拍手1





酔った勢いで事後の話。
社会人。





「精市君」
「何?」
「何で私はこんな所にいるのかな?」
「知らない」


むしろこっちが聞きたいよ。そう言ってベットから起き上がる彼。やっべー、どうしよう。
事の始まりは昨日の飲み会だと思う。酔った勢いでやっちまったのか私。信じらんない。だが、床に散らばる服と体の気だるさがその現実を突き付ける。
やっちまった。それも同僚と。あーあーもう、何やってんの私。お酒を飲み過ぎると記憶が飛んでしまう私は、普段飲み過ぎるなんて無いのだが、昨日は疲れもあってか予想より遥かに早く酔いが回ってしまったらしい。全く覚えていないから、憶測でしか無いけど。


「あのさ、俺、最低なんだけど全く覚えてないんだ。」


申し訳無さそうに目尻を下げて言う彼は普段の彼らしくなかった。精市君ってOFFだとこんな感じなのか。って昨日もOFFっちゃOFFだったのかもしれないけど、全く覚えていないから仕方がない。
自分も全く記憶が無いと言うことを告げると、最初の発言から予想できたと言わんばかりに苦笑いしながら、やっぱり、と言う彼。


「ここ、精市君の家?」
「あ、うん。そう。」


頷きながら頭に手をやる彼は少し具合が悪そうだった。二日酔いかな?そう聞くと無言で頷く彼。二日酔いは無いんだ?と逆に質問され、うんと頷き下着を拾う。記憶が無いのに二日酔いは無いなんて不思議な体だが、本当に頭はクリアだ。


「ごめん、俺は暫く動けない」
「ね、そんな感じ。顔青いもん。台所勝手に使って良い?なんか作るよ」
「いいよ、和食がいい。」
「うん、分かった。」


扉を閉めて見慣れないリビングを歩きながら、ふと思う。すっごく自然な感じで会話してたけど、私達、やっちゃったんだよね?精市君、動揺とか全く感じらんない態度だったんだけど、よくあるのかな?うわ、なんかそう考えたらすっごく嫌だ。精市君が、他の女ともしてるって考えるだけで気持ち悪い。彼女でもない、ただの同僚がこんなこと思うのって変かもしれないけど、嫌な物は嫌なのだ。


「うえ…」
「あ、やっぱり気持ち悪い?」
「精市君!いや、大丈夫」


あんまり無理しないようにね?そう柔らかく笑う彼にときめいてしまっている自分がいた。なに考えてんの自分。馬鹿な考えを振り払うように首を振って、精市君こそ大丈夫?と言うと寝起きよりは、とまだ青い顔で笑う。


「和食だっけ、パパッと作っちゃうね」
「…ありがとう」


お礼と共に後ろから腰に手を回され思わず肩が飛び跳ねそうになった。それに気付いているのかいないのか、私の肩に顔を埋める精市君。どうしたの?そう問えば彼は躊躇いがちに口を開いた。


「忘れてるって、嘘。」
「……え?」
「本当はバッチリ覚えてる」


彼の突然の告白に目を白黒させている私に、ごめんと付け足された言葉。いや、別にいいんだけどなんでそんな嘘を?


「思い出した時の慌て様が見たかったんだけど、全く覚えて無さそうだったから諦めた。」


なる程、と納得したと言わんばかりにポンと手を付けば精市君は納得なんだ、って苦笑い。まぁ、普段の意地悪な精市君からだったら予想できたかなって。それでも不思議なのはなんで私だったの?ぼんやりと浮かんだ昨日の帰りの記憶を辿る。そうだ、確か帰りは他にも女の子居たはず。不思議だと言った風に首を傾げれば、精市君は苦笑いを零して、本当に覚えてないんだ。とくぐもった声で話す。ごめんね?残念ながら本当に全ての記憶が飛んでるんだ。


「君が帰りたくないって言ったんだよ」
「え」
「俺の事好きだから、抱いてって言ったのもそう。」


うわーお、どうしよう。すべての種は私じゃない。じゃあ、つまり、精市君は酔った勢いとかじゃなくて、同意の上でしたって事?


「そういう事、かな。君が今意見を変えなかったらの話だけどさ」


変えるわけ無いじゃないか。思わず飛び出した言葉に赤面するも精市君はとっても嬉しそうに笑うからもう今まで悩んでた、精市君のこととか本当にどうでもよくなっちゃいました。


なるようになれ、って奴ですかね。





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