勘違いピエロ



同じ部活の先輩、苗字先輩は俺の幼なじみであり姉的な存在である。昔から一緒にいたせいか気を使わなくて楽だし、一緒にいて落ち着く存在だった。そんな彼女が今、サッカー部の先輩にゴミ捨て場の前で告白されている現場を目撃してしまった。もっといい場所は無かったのかとつっこみたいのは山々だが、何故かできず隠れてしまった。…しまった、と言うよりも現在進行形で、の方が正しい。ついでにゴミ捨てに行く帰りに鳳に捕まってしまったので鳳も一緒に隠れて様子を見ている。


「…先輩、告白されてるみたいだね」
「見りゃわかんだろ、馬鹿か?」
「また日吉はそう言う言い方を…あ、先輩笑ってる」
「!」


ひそひそと声を潜めてバレないようにしているのか鳳が見て分かるようなセリフを言ってきた。本当そんな事馬鹿でも分かるだろ。大体断るに決まってんだ、あいつは興味ないんだよ恋愛なんか。内心そう思いつつ先が読めたので目を彼女達から離して帰ろうと靴を翻した時、鳳の口から思わぬ言葉が飛び出した。笑っている、だって?告白で笑っているなんて、答えがYESの時位しか思いつかない。


「あ、こっち来る!どうしよ日吉!」


なにやら慌てている様子の鳳など最早目には入っていない。俺の頭の中には彼女が笑っていたと言う事実がぐるぐると渦を巻くように回っていた。彼女とは幼い頃から一緒にいた、兄弟に近いくらいの存在。彼女との仲は誰より良いと言う自信があった。そして、誰よりも彼女を理解した気になっていた。恋愛なんかに興味は無いと勝手に決めつけて安心していた。自分の好きと言う感情はそう言った家族愛のような物だと思い込んで、彼女への思いを飲み込んで。でも全て俺の勘違いだった。彼女が他の男のものになって初めて、理解した。彼女が俺にとって大切な幼なじみの枠をとうに越えていた事、彼女は恋愛に興味を抱くごく普通の女の子だったと言う事を。だが、今更気付いた所で何も起きない。ただ、俺の中で後悔の念が渦めくだけだ。


「何やってんの、二人とも」
「せ、先輩!いや、その…」
「あ、さては見てたな?」
「えと、その…」
「…………」


日吉〜!と言う目線を鳳から送られたが何も言う気になどなれなかった。俺は今勝手な思い違いからの自信を崩されて口を聞くことすら出来ない状態なんだ。むしろこの場から走り出してしまいたいくらいなのに、何故か足が動かない。ほんの数分まで心地よかった彼女の俺を呼ぶ声も、今は重く俺を苦しめる物にしかならない。


「覗きなんて良い趣味してんじゃん、鳳、若。」
「すすすすみません!」
「…すみません」


必死で誤る鳳をよそにふてくされたように小さく言う俺を見て目をぱちくりさせた先輩。そんなにびっくりさせた理由は多分いや、間違いなく俺だ。それが分かっていながらも俺は何も言えなかった。苦しさの余り気が狂いそうになる。


「若、どうしたの?」
「別に」
「何怒ってるの?」
「別に」


怒ってる訳じゃない。むしろ自分に呆れているんだ。なんてそんな事を言える訳無い。軽口でも叩いてやろうかと思うものの、それを言う余裕すら失っている。こんな態度じゃいけないのは分かってる。でもうまく言葉が出てこない。どうすればいい。苦しいんだ、やっと分かったのに、彼女は遠くに行ってしまった。らしくも無く、泣きそうになる。


あぁ、馬鹿みたい。


(彼女の呼びとめる声を無視して)
(走り去る俺はただの馬鹿だ)
(ごめん、)


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2011/08/21 …不器用な日吉が書きたかったんだ…
2011/08/23 ちょこっと修正。




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