退屈からの脱出



くだらないくだらない。私は昔からつまらないことには興味がなかった。ついでに面倒なことにも興味はない。だからいつもと同じことを繰り返し過ごす学校は大嫌いだった。


でも、それでも、ちゃんと学校に来ているのには理由があるんだ。


いつも通り、退屈な授業が終わり、残るは掃除のみとなった。私は掃除当番ではなかったので、自分の荷物を素早く片付けて図書室へと駆けていく。おそらく、彼も今日は掃除当番ではなかった。図書室の扉の前に立ち、呼吸を落ち着かせる。大丈夫、ここに来る前に鏡でちゃんとおかしいところがないか確認したし、制服だってちゃんとしている。もう一度だけ髪を手で解かしてから扉を開けた。

扉をあけ、中に入ると窓際の一番端の席に彼が座っていた。私はそっと近付き、彼を吃驚させようと試みた。


「名無しが俺を驚かせようとしている確率98%」
「!!…よくわかったね。」
「名無しのことなら大抵はわかる。」
「…なんか、嬉しいような嬉しくないような。」


彼、柳君が、私が学校に来る唯一の理由。
柳君はテニス部の三強とか呼ばれる人たちの中に入っていて、データを集めるのが好きだからとかそんな理由で参謀とも呼ばれているらしい。それでもって、女の子からの人気もすごい。

かく言う私も、その中の一人だ。

友達と一緒にテニスの試合を見に行った時の柳君を好きになってしまった。それから、何か接点はないかといろいろ考えていた時に、何と柳君から話しかけてきてくれたのだ。…というか、先生への言伝を頼まれただけなのだが、もう嬉しくて、その夜寝れなかったのを覚えている。

それから幸運なことに、よく話す仲のいい友人までに発展させた。本当、大変だった。
最近ではお昼まで一緒に食べるようになってきた。学校が退屈な場でなくなったのは言うまでもないだろう。


「今日は何の本読んでるの?」
「あぁ、今日は」
「あ、待ってやっぱりいいや」
「…と言うと思った。聞いてもわからないから、だろう?」


苦笑いする柳君に私も笑い返す。
あ、でも。と言葉を続ければ、彼はどうした?と優しく訪ねてきた。
ほんと、所々カッコいいな。この人は。


「この間言っていた、お勧めの本、面白かったよ。」
「そうか。…にしても、相変わらず読むのが速いな。」
「読むのは昔から早いんだ。なんでかわかんないけど」
「昔から本を読んでいれば自然に速くなるものだ。読書は習慣だからな」


そっか、と答えると彼は本を閉じ私と向き合う。どうしたの、とたずねる前に、柳君が質問を投げかけてきた。


「前から聞こうと…いや、確認しようと思っていたことがあるのだが」
「柳君でもわからないことがあるの?」
「…お前は、何故図書室に来るんだ?」
「え、ダメかな?」


そうじゃない、と首を横に振る彼は言葉をつづけた。


「質問の仕方が悪かったな。では、はっきり言おう」
「?…うん、」
「何故いつも図書館に来ているのに本を読まないのだ?」


…思わず黙ってしまった。そうだよね、そりゃあ不思議だよね。
はたから見れば、私ってだいぶ変な人だ。


「それから、俺が図書室に来る時にいつもお前がここに来るように思える。まるで、俺に合わせてここにきているような、そんな気がするんだが」


まずい。非常にまずい。これはまずい。だいぶまずい。ばれてしまった。おそらく、いや、確実に、ばれてしまった。頭のいい彼が気付かないはずないじゃないか。何をしてんだ、私。

彼と話すことがうれしくて、そんな細かいことなんて全く気付かなかった。どうしよう、どうしよう。これではもう、友達ではいられない。彼と話すことも、もしかしたら会うことすら出来なくなってしまうかもしれない。


「俺の勘違いだったら本当にすまない。だが、これだけは確認しておきたいんだ」


そういった彼は、今までに見たことのないような、真剣な顔をしていた。テニスのときだってこんな顔はしていなかった。


「名無しは…、俺のことが、好きなのか?」


あぁ、やっぱりばれてしまっている。ひょっとしたらもう随分前から気付かれていたのかも。もしかしたら、最初から、全部。だって、柳君はデータマンだし、確信があっても、すぐにそうだと決めつけるような単純な、私のような人ではないから。

今までずっと無言だった私は、もうごまかしはきかないと首を縦に振ってそうだよ、と答えた。その声は震えていて、自分でもびっくりした。何泣きそうになってんだ、馬鹿。


「………」


柳君は、無言。
あぁ、やっぱり。もう駄目だ、おわった。もうこれで学校に来る意味がなくなってしまった。下唇を噛んで泣きそうになるのをこらえた。どうしよう、本当泣きそう。…でも、それでも逃げ出さないのはここで逃げてしまったら本当にもう話もできなくなりそうだったから。もしかしたら、まだ友達でいてくれるかも、なんて甘い希望が脳裏に浮かぶ。迷惑だって、無言な彼を見ればわかるのに。


「…ごめんね、困るよね、そんなの、」
「………」
「も、もう近付かないから、」
「………」
「だ、だから…」


嫌いにならないで、
もう迷惑だってわかってる。でも、言わずにはいれなかった。お願い、柳君、もう図書室にこないから、お弁当も一緒に食べたりしないから、もう、廊下で会っても声かけないから、手を振ったりなんかしないから、

嫌いになんかならないで、


「…何か勘違いをしているようだが、お前はこのままでいいのか?」
「こ、このままで、って?」
「友達のままで、ってことだ」


……柳君は何を言っているんだろう。友達のままじゃなかったら何になるの?他人になれと言っているの?


「だから、俺と恋人になりたいとは思わないのか?」


……恋人?


「待って、どういうこと…?」
「訳が分からないと言う顔をしているな。…まぁ、簡単に言うと、」


俺もお前が好きなんだ。


(…うそ、)
(じゃないからな?)
(ヤバいよ、柳君、私泣きそう)
(…というか、もう泣いているぞ?)


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2011/01/31 蓮二君私と結婚してくれ(笑)





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