物足りないよ物足りないの。
「でさー、あいつもう本当可愛くって可愛くって。」
「あー、はいはい。そうなんだー、よかったねー」
「なんだよぃ、その返し方」
幼馴染の丸井君に彼女ができました。
別にだから何って感じなんだけど、こうも毎日毎日のろけ話を聞かされるとさすがの私もイラッとくる訳だ。彼女が可愛すぎてどうとかこうとか、そんなんこっちは聞きたくないっつーの。ごめんねー、なんて感情のこもっていない返事を投げ返せば、彼はつまんねーの、と標的を仁王君に移したようで話しかけに言っている。懲りないなー、あいつ。
「全くブンちゃんには困ったもんじゃ…」
隣に座ってきた柳生君がメガネを押し上げながら溜め息をつく。その口調からして明らかに柳生君ではなく変装した仁王君っぽいんだけど、あってる?
「ピンポーン、正解じゃ」
茶色の髪をするりと取り、その下から現れた綺麗な銀髪。間違いなく仁王君。じゃあ今追いかけられてるのは柳生君なのか。可哀相に。…て言うか、仁王君。なんで変装してるの?
「それはお前さんと二人っきりになりたかったからじゃ」
「またそんな冗談を」
「冗談じゃなんじゃけどのぅ」
「…私はペテンにはかからないよ」
難しいのぅ。なんて涼しい顔をして言う辺り、仁王君はやっぱり詐欺師だ。詐欺にかかる私を見て楽しもうとしてるんだ。でもそう簡単にはいかないよ。だって私は、
「だって私は…なんじゃ?」
「………」
「ブン太君がすきー、って?」
「…ちが!」
「怪しいのぅ、必死になるとこが更に怪しいナリ。」
「…ちが…う」
「本当に、そうかのう?」
言葉を詰まらせて俯く私を更に追いつめて行く仁王君の言葉。いったいなんだって言うんだ。そんな事君に言われたくないし、言える権利なんて無いじゃない。
「確かにそうかもしれん」
「じゃあ黙っててよ、」
「それが不思議と出来ないナリ」
「…仁王君って、ムカつく」
褒め言葉じゃ、なんて嬉しそうに笑いながら話す彼に若干イラついたのは仕方のない事だと思う。褒め言葉って何だよ。それもうただのMじゃん。
「まぁそんな落ち込みなさんな。」
「何でよ、私振られちゃってんのに。」
「そんな君にだいちゃーんす!」
どうでもいいけど仁王君の標準語って気持ち悪い。そう素直に気持ちを伝えたら頭を小突かれた。だっていつも変な方言使ったりして喋ってんだもん。
「変って言うのは失礼ナリ」
「じゃあ例えばなんて言えば失礼じゃないのさ?」
「…………個性的?」
「随分と間があったね」
「いや、これは敢えて入れた間であって…って、そんな事どーでもいいじゃ!」
言い訳を途中放棄しブンブンと首を振った後、何時に無く真剣な顔でこちらを見て来た。そんなにじっと見つめられると流石に照れるね。そんな冗談を口にしようとするがその口は仁王君の唇によって封じられてしまった。どういう事?
「ついてないお前さんに、プレゼントじゃ。」
「…ばっかじゃない!?」
とか言いつつ抵抗しないのはなんでじゃろ?にっこりと満足気に笑った仁王君の顔が死ぬほどムカついたけど、抵抗しない私にも腹が立った。こんなアホよりブン太の方が全然カッコいいのに。全然好きなのに。なんで、どうして抵抗しないの、私。
だったら埋めてあげよう。
(ブンちゃんから俺に乗り換えんか?)
(お断りします!)
(ホントは嬉しいくせにー)
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企画、オリオン様へ提出。
2011/06/20 アレ、オカシイナ。ブン太夢だったはずなのに。