触れて確かめて



事の発端は、一氏の一言だった。


「苗字ってホンマに白石と付き合ってんの?」


一瞬にして、涙が溢れ出した。こんな何気ない一言で涙するなんて一氏は思ってなかったみたいで、すっごくおろおろしていた。ごめんね、私も泣くつもりなんか毛頭も無かったんだけど、止まらないや。


「なに言っとるん一氏!自分ホンマに死ね!!」


そう言って一氏を蹴り飛ばしてちょっと場所移動しような?って私を優しく裏庭に誘導してくれたのは小春ちゃんだった。ごめんね、一氏。


「あんなアホに謝罪なんて勿体無いもん要らんで?」


罵声の一つや二つ許されるで?って優しく頭を撫でてくれた小春ちゃんは本当優しいと思う。でも一氏も心配して言ってくれたって分かってるから、大丈夫だよ。ただ、言い方をもうちょっとオブラートに包んで欲しかったというかなんと言うか。笑ってそう言えば小春ちゃんも安心したのかやわらかくほほ笑んでくれた。それから、ちょっと言いにくそうに理由を聞いて来た。


「言いにくかったら無理に言わんでええけど、あんまり溜め込むのも辛いやろ?」


その言葉を聞いて、私の感情と涙腺のストッパーは完全に壊れてしまった。今までため込んでいたものすべてを小春ちゃんに打ち明けた。
付き合ってもう2ヶ月なのに手も繋いで無い事とか、話す時目を見てくれないとか。ほんの些細な事だけど、友達の頃はふざけて腕組んだり、頭撫でて貰ったりしてたから、余計に今の現状が辛かった。告白だって私の方からで、私ばっかり蔵のこと好きみたいで悲しかった。
泣きながらの訴えだったから聞き取り辛くて小春ちゃんには申し訳なかったけど、小春ちゃんはしっかり聞いてくれていた。


「大丈夫やで、あの子も名無しちゃんにベタ惚れやもん。な、白石?」


え、蔵?小春ちゃんの口から出た名前に驚いて顔をあげれば小春ちゃんが私の後ろに向かってほほ笑んでいるではないか。恐る恐るといった風に振り向けば吃驚した顔の蔵が私の後ろにいた。どういう事か全く分からないんだけど、どうしよう。只でさえ混乱してるのに蔵は小春ちゃんに席をはずすように言うから、私の頭はさらに良く分かんない事になって来てる。どうしよ、さっきの聞かれちゃったよね。別れようなんて言われちゃったりしちゃうのかな。そしたらたった2ヶ月だったけど、ありがとうなんて言っちゃったりしちゃうのかな、私。無理無理。そんな格好良く別れるなんて出来ないよ。だって私、蔵の事まだ好きだもん。朝起きて歯磨きしてる時だって、お昼に友達と話してる時だって、夜シャンプーしてる時だって、いつだって蔵の事しか頭に無いんだよ?蔵の事、まだ大好きなのに、格好付けてさようなら、なんて絶対言えない。無理だよ。


「ちょ、勝手に別れる前提で話進めんといて!」

「じゃ、じゃあ何?」

「だ、だからな?その…ごめんな、ほんまに。…俺、我慢することで精一杯やってん。
名無しがそんなに俺の事で悩んでるなんて、全く思いもしなかった」

「が、我慢?」

「ん。だけど、名無しから我慢せんでええちゅー事を聞いてすっきりしたわ。もう我慢せんで?」

「え?え?どういう事?」

「せやから、この二ヶ月我慢して名無しに触れんようにしとったんや。情けない話やけど、触れたら我慢できなくなりそうやったから」


ようやく頭が回転して来てくれたのか、蔵が話している事の意味が分かった私は顔が赤く染まっていった。我慢できなく、って…!
恐らくゆでダコのように赤く染まっている私の顔を見て嬉しそうに笑った蔵を見ていると、なんだかもう今までの事なんかどうでも良くなってきちゃう私ってどんだけ蔵の事好きなんだろ。


「好きや、名無し」


突然紡ぎだされた言葉に思わず身体がびくりと反応してしまった。それだけじゃ無く、確かめるみたいに指を絡められちゃって、もう恥ずかしくって蔵の事なんかまともに見れない。なのに唇を何度も重ねてくる彼は意地悪だと思います。


鍵を開けてしまったのは私だけれど。


(は、恥ずかしいよ蔵)
(…今日ホンマにお持ち帰りしてもええ?)


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2011/03/27 蔵はオープン寄りのむっつりだと思う。








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