16回目の誕生日



今日は俺の16回目の誕生日。部活の皆やクラスの子、その他大勢の人に祝いの言葉や贈り物なんか頂いてしまった訳だけど。だからと言って世界がどうこうする訳も無くって、世界は昨日と変わらずにただいつも通りに過ぎて行った。まるで、俺の事なんか見ていないみたいに。なんだかそれが、無性に悲しくって、腹立たしかった。別に、世界が俺の為にどうこうして欲しい訳じゃ無いけどさ。例えば今、横を通り過ぎたサラリーマンの人だとか、信号を渡ろうとしてる人だとか、そういう俺と話した事も無いような人たちが、何でも無い様に過ごしていくのを見て、この日を特別に感じて生きて居るのがほんの少しの人しかいないのが、悲しかった。俺の誕生日を知らない彼女も、今日という日は何でも無い日と変わらない物なのかな、なんて考えたら少し、悲しくなって来たりしちゃってる訳なんだよ。て言うか、俺なんで誕生日にこんな事考えてるんだろ。悲し過ぎなんだけど。まるで俺が一人ぼっちみたい。どうにかしてよ、名無し。おめでとうって言って笑ってよ。ってそうか、彼女には俺が誕生日だって教えなかったんだ。あーあ。彼女に祝って貰えない事がこんなに悲しい事だなんて思ってもみなかった。こんな事なら彼女に誕生日くらい教えておけば良かった。なんだかんだ言って俺、彼女が一番好きなんだなぁ。って、どうしよう。そんな事考えてたらいつの間にか放課後だ。嘘でしょ、もう半日以上過ぎてんの?あぁ、有り得ない。しかも今日は部活が無い。もっと有り得ない。どうしよう。いや、どうしようもないんだけど。今更自分から今日誕生日なんだけど、なんて言っても彼女を困らせるくらいで、俺には何の利益も無い。いや、彼女の困ってる顔を見るのはそれはそれで面白いから利益にはなるか。でも、俺が欲しいのは彼女の困ってる顔なんかじゃ無いんだよ。誰が好き好んで自分の誕生日に彼女の困り顔見るんだよ。居ないよそんなの。居るとしたらただの変態か相当なドSだよ。俺は変態でもドSでも無いから。


「何故俺にそんな話をするんだ?精市」

「柳くらいしかデリケートな会話ができそうにないから」

「なるほどな。で?その子の所には行ってみたのか?」

「…行ってない」


行ける訳無いじゃん。だってなんか誕生日祝って欲しいって言ってる様なもんじゃん。恥ずかしいでしょ、そんなの。机に突っ伏しながら柳と会話していると、柳も隣の席に同じように突っ伏して来た。珍しいな、柳がこんな事するなんて。


「精市が意外だと思っている可能性79%」

「…あたり」

「俺だってたまにはするさ」

「…でもなかなか、不自然って訳じゃないね」

「精市もやってみたらどうだ?」

「…?なにを…」

「さっきの話だ」

「……変じゃないかな」


変じゃないさ、と言った柳が楽しそうに笑っていたせいかな。俺の身体はとても素直に彼女の元に走って行った。まるで、誰かにその言葉を言って貰うのを待っていたかの様に。いや、待ってたんだ。彼女が俺の誕生日を知らなかった時に誰かのせいにして笑える様に。自分のせいなのに、ね。彼女が俺の誕生日を知らなくても、知っていても、彼女と柳にごめんねって言おう。そう決めて彼女の教室に走って扉を開けると、そこにはクラッカーと彼女の笑顔が待っていた。…柳、知ってたんでしょ。なんで言ってくれなかったの″って柳に言いたかったけど、多分今一番その言葉を言いたいのは今俺の目の前に居る彼女だから、今日は代わりにお礼を送ってあげるよ。


ありがとうと笑顔を君に


(おめでとう、精市)
(…ありがとう)


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2011/03/17 謙也の誕生日と同じ日にうpって私死んでこいよ…。







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