気付かないひと



吸血行為は嫌いだ。痛いし次の日になっても痛みがひかない。意地の悪いことに見えるところに噛み跡をつけてくるので、次の日は倦怠感もあって学校を休むことが増えた。
友人には体が弱いのかなどと心配されるがそうではない。そうだったらどれだけマシなのかと悩まずにはいられなかった。 

昨日はしていない。というか、家に来ていない。恐らく吸血鬼仲間といつものバーでゲームでもやりながら血を補充したのだろう。それでもなお俺の血を吸うのはなんでだと問いただしたことがいくらかあったが、いつもはぐらかされるばかりだった。

なんて、風呂上りで髪の毛も乾かさずに考えているあたり毒されているなと思う。もしかしたら背中に羽の形のあざがあったりして、と考えたところで吹き出してしまった。そんなこと、あるわけない。
今日はもう寝ようと、濡れた髪の毛もそのままに布団にもぐった。
うつらうつらとした意識のなかで、電気消してないな、なんて考えたところで目蓋が落ちた。



刺すような痛みがつらくて目が覚める。中途半端に覚醒した意識で、光に目をくらませながら部屋のなかを見渡す。
見慣れた頭が視界にちらついて、やっぱりと思った反面、嬉しくなった。
すするような音に、寝てる間に吸っていたのかと悟る。
えぐるような動きに目が覚めた。

なんだかんだ言いながら俺はこうされることを望んでいるし、どう血を補充したとしても、最終的には俺に戻ってくれるんだと思うと恍惚だった。

 はあ、と少しため息をついて、氷川の頭を押し上げる。粘着質な音を立てて離れていく。抜け切るときが一番痛いな、と思いつつ起き上がる。覆いかぶさる氷川も道連れにして。
ベッドのうえに座ったまま、じいっと見つめる。口周りに俺の血がついている。乾き切っていないそれがなまめかしくて目を逸らした。

「あのさ」

目を逸らしたまま口を開く。なんとなしに声が震えているのがわかって、頬が熱くなる。

「おまえ、これで血吸えてるの?」

いつもとは違う質問だった。それにはすこし驚いたようで、一瞬だけ雰囲気がかわるのがわかった。恐る恐るみてみるといつもの表情で、ああやっぱりはぐらかされるのだと思ったとき氷川が口を開いた。

「吸血行為には程遠いな。足りない」

だが、と続ける。顔を近付けながら。

「またおまえを殺して再生するのは面倒だ。おまえを死なせるのはもったいない」

なんて。
なんてことを、耳元で平気で言ってくる氷川がいつもとは違う雄の顔をしていて。
柄にもなくときめく俺ってばどうしたんだろうか。無関心だと思っていたからなおさらかもしれない。

その言葉が何よりも嬉しかった。
いつか死にそうな時は。その時は。

「(氷川に、吸い尽くしてもらえばいい)」

押し倒してくる氷川を抱きしめて、身を委ねた。いつもそうするように。
愛しいひと。
俺の唯一のひと。
囁く言葉に悦を感じながら、また微笑んだ。



 



結局意味のわからない話になってしまった。
血を吸われることに対して、俺を必要としてくれてるのかな、ただの餌なのかな、と悶々としてる計ちゃんと、一回殺しちゃってもやもやしてるから殺さないよう気を付けて首筋にしてる氷川さん。
なるべく少量にすましててもやっぱり人間には大変なようで。計ちゃん頑張って。 




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