思い知るのは

現パロアルエレ
これの続き
別に読まなくてもいけ、る…?



あれから何年経っただろう。高校在学中、アルミンから開放されることは一度もなかった。何をするにも一緒だった。帰るのも、部活も、他人と関わるような行為を制限されていた。
もうあの息の詰まるような思いをしなくていいのだと思ったのはいつだったか。開放感に満ち満ちていたのは。今ではそれも恋しいほど、時間がすぎたような気がする。結局アルミンは推薦で国立大へ行くことになった。ミカサは大学へは行かないなんて言って先生を落胆させていた。俺がどうあがいてもアルミンと同じ大学へ行くことはできないと気づいた彼の顔は珍しいものだった。 俺はそのあと、大学へ進学するという銘で県外へ行き一人暮らしをしている。大学へは行っていない。親にそれを言えないのはアルミンが怖いからだ。彼がもしこの事実を知ったら二度と離してはくれない。外へ出すことすら嫌うだろう。そう思うと心苦しいながらもそうやって嘘をつくしかなかった。

俺は今個人が経営している小料理屋で働かせてもらっている。店長が俺と同い年だというのはびっくりだったが、一緒に働くうちにそれは納得できた。なんというか、素晴らしいやつだと思う。たまに口喧嘩するがそれが気にならないくらいいいやつだ。

「お疲れ、エレン」

「おう」

「まかない食ってくだろ? お前金ねーもんなー」

にやにやした笑いを顔に貼り付けながら肩を組んでくる。どうやらバイトの子たちは帰ったらしい。俺と店長であるジャンしかいないみたいだった。
ジャンは俺の過去を聞こうとはしない。それでいて昔から付き合いがあるように接してくれるから楽だった。アルミンを思い出さなくてすむ。ジャンの優しさは心に沁みた。

「やっぱさあ」

「なんだよ」

「ジャンの作る料理、うまいよ」

「はっ…、?」

「俺のお袋だってここまでうまくねーよ、すげーよなほんと。毎日食っても飽きねーもん」

ジャンの顔はほのかに赤らんでいたような気がした。きっと照明の関係だろう。オレンジ色だしな、と考えていたら、いきなり頭をかき回された。

「いってえ!」

ばかやろう! と叫びながらジャンを見やると、見たことのない柔らかな笑顔をしていた。思わず真顔になってしまう。けれどそんな表情も一瞬、すぐ消えてしまい、いつものジャンの顔になった。
頬をつねってくる手を引っ張るが悲しいかな筋力の差でどうにも外れない。

「…俺さ、ジャンと会えてよかったと思ってるんだ。ジャンって優しいしさ、一緒にいて楽しいし、いいやつだよな」

どうも今日は感傷的な気分らしい。なんだよ珍しいな、というジャンに背中を向けごちそうさまとお疲れ様を言って家路へつく。

彼のそばは心地よくてたまらない。陽だまりにいるような感覚。暖かくて優しくて、自然と笑えるような、そんな感覚。いつぶりだろうか。そんな感覚は。気付いたらもう俺たちはバラバラになっていた。小学生のころには戻れないのに。

ため息をひとつつく。明日は休みだから気のすむまで寝よう。風呂くらい入らなきゃな、と思うけれど今日は忙しくて疲れているのでその元気すらなさそうだった。
あくびをひとつついた時、懐かしい感覚に襲われた。

あの感覚。もしかして。
いや、気のせいだろう。そうに違いない。まあそういう勘違いくらいよくあるよな、と頭の隅で考えて、歩くスピードを早めた。もうすぐでアパートだ。ついてしまえば、部屋に入れば安心できる。だから早く帰りたい。早く帰って、もう寝たい。
心の隅では気のせいじゃないんじゃないか、と思いながら、鍵を押し込みドアを開けた。すぐに閉めて一息つく。疲れてるのだろう。たまにはそういう時もある。鍵をしっかり閉めたのを確認して布団へとダイブした。


ねえ、エレン。エレンも僕が好きだよね? 僕は大好きだよ。あのねエレン、結婚式なんだけど僕がタキシードでいいよね? エレンの花嫁姿なんて想像するだけでも楽しいよね。何色が似合うかなあ。お色直しは何回がいい? 身内だけにする? それとも大きい結婚式にしようか。みんなに知らせてあげなきゃね、エレンは僕だけのものだって。ほんとは花嫁姿だって見せたくないけど、みんなに教えてあげるチャンスだもんね。仕方ないよね。そうだ、子ども! 何人がいい? 僕はいなくて構わないんだけどエレンはほしい? そっか、ならやっぱり二人かな? 女の子と男の子。どっちもエレンに似てるといいのに。え? それじゃ嫌? なあにエレン、僕に似ている子どもがほしいの? エレンってば可愛いなあ、それなら女の子がエレン似で男の子が僕似だといいね。ふふふ。今から楽しみだなあ。ねえ、エレン。

逃げようなんて思わないで。
僕にはエレンが必要だから。

ーーやっと見ないようになった悪夢だった。久しぶりにフラッシュバックする。つらい。苦しい。アルミンはおかしい。だって俺たちは男でーー 

窓からさす日光のまぶしさに目が覚めた。
少し唸ってから携帯を開ける。もう昼過ぎなのか。よく寝たなあ。久しぶりにこんなに寝たような気がする、と思いながらいつものように郵便を取る。寝ぼけ眼でざっと目を通すと妙に白い封筒が目に付いた。少し逡巡してそうか、消印がないからだと思い至る。その懐かしさに背筋が凍った。 

「もしかして、これ…」

すでに目は覚めた。やっぱり昨日のは気のせいではなかったのか。いや、違うかもしれない。気のせいかもしれない。全て気のせいかもしれない。
だってミカサですら俺がここにいることを知らないのに。

震える指で封筒を開ける。
慌てて開く便箋。真っ白で穢れのない便箋。

『久しぶり、エレン。僕のいない生活は楽しい? たまには息抜きをと思ってずっと黙ってたんだ。あんまり縛り付けちゃかわいそうだもんね。だから泳がせてみたんだけど、エレンってばひどいよね全く。いくら寂しいからって僕以外の人と仲良くするなんてさ。僕ってばまんまと嫉妬しちゃったじゃん。ずっと見てたけど、彼ならまあ大丈夫そうかなって。エレンを見つめる目がやらしいのはわかってたんだけどね、手を出せ無さそうだから黙ってたのにエレンがそそのかすなんて。僕って弄ばれてる? けどいいや、エレンなら僕のもとに帰ってくるって信じてる。心配になって手紙を出してみたよ。あ、ラブレターかな? 何にせよエレンに忘れてもらわないために、懐かしい写真送るね。愛してる。エレン、愛してる。僕だけのものだよ。いつか帰ってきてね。待ってます』 

思わず手紙を投げた。意味のない言葉を叫びながら頭をかきむしる。隣人が壁を叩く音が聞こえて思わず口に手をあてた。ーーやっぱり、と思った。あれはアルミンだったのだ。彼だった。ご丁寧に文字通り忘れさせないために送ってきた手紙。同封された写真を、捨てるためにかき集めた。
懐かしいなんてものじゃ表せないほどの嫌悪感。思わずかき集めた写真のうえに嘔吐した。これが悪夢だったらよかったのに。

結局その日は休みなのが幸いしたように思う。過度のストレスで微熱が出たのと断続的な嘔吐感程度ですんでよかったと思う。今日が出勤だったらジャンに迷惑をかけていた。彼のことだから心配して家にくるだろう。それだけは避けたかった。そんな場面を見たらアルミンがどう思うか、それを考えるといてもたってもいられなかった。アルミンの触れた場所が気持ち悪くて、まるで芋虫が体を這うような感覚に襲われて、かきむしってしまう。風呂、風呂に入ろう。明日は出勤だからと言い聞かせて風呂に入っても、異常なほど体を洗ってしまう。全てが夢だったらどれだけ幸せだろう。

俺は、昔のままでいたかったのに。

幻聴が聞こえる。エレン、と呼ぶ声が。アルミンの声が頭の中で響く。
もうやめてくれ。これ以上はたえられないよ、アルミン。

風呂に入れるほどの気力はなかった。シャワーでも充分か。それだけできればまだマシだと言い聞かせて髪の毛の水分を乱雑に拭う。大雑把に体を拭いて服を着た。
布団に寝転び天井を見ながらなんとなく考える。アルミンのこと。
どうして俺でないといけないのかがわからなかった。どうして俺だったんだろう。もう嫌だ、と顔を歪めると、かすかにドアを叩く音が聞こえる。もしかして! と思い、飛び上がって玄関へと向かう。ジャンが来てくれたのかな。今日が休みなのは知っているだろう。彼はときどきここへ来るから。おいしい酒でも手に入ったのかもしれない!
そう胸を躍らせドアを開ける。 

「ジャン!」

軽い声色で呼ぶ。返事がない?
そんなばかな。彼が返事をしないことなんてないのに。ふ、と脳裏によぎる。それは正しかった。

「エレン、会いたかった…!」

いくらか声が太くなっているがかわらない。アルミンの声。心臓がせわしなく動く。どくりどくりと。

「あぁ…、エレンだ、エレン、エレン、エレンの香り…あぁ…」

最後に会ったときよりたくましくなった体つきに、これは本当にアルミンなのかと疑う。けれどこれはアルミンだ。間違いなく。疑う余地もないほどに。

「エレン、迎えに来たよ。やっと僕がエレンを守れるんだ。やっとだよ。会いたかった、エレン…!」

小学生のころの、助けを求めるアルミンの顔が重なる。

あぁ、アルミンだ。
俺が恐れていたはずの人。けれど違う。アルミンは変わっていなかった。


変わったのは、俺の方だったんだ。

 








彼らなりのハッピーエンドには違いないのです
エレンは離れながらもアルミンが追ってくるのはわかっていて、心のどこかでそれを期待していたんじゃないかしらと思います
もうわかんないですこの子たち
ジャンごめんね好きなんだけど当て馬…今度はちゃんと絡ませるから! 





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