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「おーい火神!」

振り返ると同じ学年で同じ部活の降旗がいた。

「お前素直に勉強するわけないと思ってたけど最近真面目にやってるってな!」

「うるせーな畜生…」

オレも実際、最初はテスト期間で全部活が休みになったらこっそり体育館でしようとは思っていた。でも放課後も毎日図書室に行けば、必ずあいつがいる。割とスパルタで勉強に付き合ってくれるのだ。

「1人でやってんの?」

「いや…オレの後ろの席の黒子って奴に教えてもらってる」

「黒子…?」

降旗は黒子の名前を繰り返して、あー!と何かを思い出したように声を上げた。

「黒子知ってんのか?」

「いや、オレは見たことねーけど…黒子さんだろ?確かあだ名がさ、“幽霊”なんて呼ばれちゃってんだよ」

「…は?」

幽霊?何だよそれ。

「ひどいよな、いなくなったと思ったらいつの間にかひょっこり現れたりまた消えたりしてるから周りから幽霊とか、おばけとかそんな感じで言われてるらしいぜ。そんなあだ名つけたの誰だよって話」

「………」

「にしても火神がその黒子さんと仲良いなんてな、意外ー」

「悪い降旗、また明日な!」

「えっ、ちょ、火神!?」

ふざけんなよ。何で黒子がそんなこと言われなくちゃならねえ。だって、あんなに良い奴なのに。話すと面白いのに。あんなに綺麗に笑うのに。

「火神くん」

図書室の扉を開けると、やっぱり黒子はいてくれた。「今日は早いですね、走ってきたんですか?」なんて、いつもと同じ口調で。

「黒子、お前…」

「はい?」

待て。オレは黒子に何て言うんだ?たかがクラスメートで、ただ勉強を教えてくれて、教えてもらってるだけの関係にすぎない。オレは黒子に何を言ってやれるんだろう。

「火神くん…?」

黙り込んでしまったオレを、黒子は困ったように見上げている。そりゃそうだ。何してんだろうオレ。格好悪い。

「分かりました」

えっ何が?

「息抜きしましょう」

そう言って黒子はカバンとオレの手を掴んだ。






着いたのは通学路にあるストバスのコート。オレもよく使ってるけど何でこいつこんな場所知ってんだろう。

「リフレッシュも大事です」

転がっていたバスケットボールを拾う。

「一気に詰め込みすぎましたね。きっと火神くんの脳が許容範囲を超えて疲れちゃったんです」

「おお、おま…毒舌だな」

悪戯っぽく笑う黒子に、またきゅっと胸が苦しくなった。

「今日は久しぶりにバスケしちゃって下さい。まあボクしかいないからつまらないでしょうけど」

そう言って黒子はドリブルをするとボールを一気にゴールへシュート。ガン。外した。いや下手だけれども。

「…お前、慣れてる…?」

風が黒子の綺麗な水色の長い髪を撫でた。黒子はにこりと、笑うだけだった。

それは今にも消えてしまいそうな儚い笑顔だった


「火神が真面目に?」

「はい。図書室で」

「へぇーアイツ図書室なんて縁なさそうな顔してっけどな」

ま、勉強してんなら関心関心。降旗の話を聞いて日向は頷く。

「でもアイツ寝てんじゃないの?図書室なんて」

「いや、何か勉強教えてもらってるらしいですよ」

「うおー…あの火神の勉強に付き合ってくれるとかめっちゃ良い奴だな…誰だ?」

「なんか、黒子って同じクラスにいるらしくて。女子っすよ!」

「何!?火神のくせに!!」

ぎゃあぎゃあと盛り上がる部員の横で、相田リコだけはその名前に反応した。

「…黒子…?」









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