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帝光中学校バスケットボール部。
全中三連覇を誇り部員数も100を超える超強豪校。なかでも10年に1人の天才といわれる5人が同時にいた世代、「キセキの世代」と呼ばれる選手たちがいた。しかしその選手たちからも一目置かれ、公式戦には出ずともプレイヤーとして、またマネージャーとしても支えとなっていた幻の六人目。それが、黒子らしい。
「出来れば言いたくはなかったんですけどね」
カントクに黒子のことを聞き、何故だか泣きそうな顔をして謝ってきた黒子が見ていられなくて、やって来たのはこの間一緒に訪れたストバスのコート。あ、練習すっぽかしてきちまった。まあいいか。先輩たちも何も言わなかったし。
「その…キセキの世代、って奴らとお前は一緒にバスケしてたのか?」
「一軍で一緒に練習はしていましたが流石に練習量や他のこと全てが同じというわけではありませんでした。女子バスケ部は有りませんでしたからね」
「そうなのか?」
「前はあったらしいんですが人がいなくなってしまって。そうでなくても帝光は男子バスケ部が有名でしたし」
「じゃあ女子はお前1人だったのか」
「いいえ、最初は何人かいたんですが厳しさに堪えかねてだんだん辞めていきました。凄く優れた情報能力を持つマネージャーの子ともう1人、それとボクだけが残りました」
「もう1人…」
「…彼女もプレイヤーとして」
でも彼女はボクなんかよりもっともっと凄い人で、みんなから必要とされていました。黒子はそう言った。男子の中に、それも天才と呼ばれる逸材の中に女子が混じって練習する。強豪校ならではの考えもあるんだろうが普通は考えられない。
「それでもボクは、みんなとするバスケが楽しかった」
けれど、みんな変わった。勝利を極めるほど、勝利に飢えていく。周りはもう並みを外れたその強さに付いて行けない。
(だから“彼”は失望した、)
「勝利が全て、勝利以外許されない。敗北なんて有り得なかったんです。みんなただバスケが好きだっただけなのに、強さを求めれば求めるほど彼らは変わった。ボクは逃げ出したんです。そんな彼らを見ているのが辛くて1人だけ逃げ出したんです」
黒子は俯いて、普段は聞けないような悲痛な声で全てを吐き出すようにそう言った。黒子は後悔している。それは多分、自分が逃げ出したことや、自分に何も出来なかったんだっていう罪悪感。黒子は今も縛られているんだ。
「火神くんにこの間聞きましたよね」
「ん?」
「自分より強い人がいなくなったら、バスケを辞めてしまうかと」
自分が周りより強くなりすぎたら、つまらなくなったと辞めてしまうか?黒子に問われたことだった。そうか、それはキセキの世代にも問いたい質問だったんだ。
「君はあのとき、それだったらもっと強い奴を探し出して戦いたいと答えてくれました」
限界なんてない。
自分に限界なんて作っちまったら何もかもつまらなくなってしまう。そうだろ?それが、「あいつ」から教わったことの一つだった。
「嬉しかった…!」
ぽろ、ぽろ、とついに黒子の大きな目から大粒の涙が零れる。女子に目の前で泣かれることなんてなかった。やべえどうしよう。でも黒子って泣いててもやっぱりキレイだなー。なんて頭の片隅で考えたり。アホか。
「あの頃の彼らに、似てるんです。ただひたすらバスケが好きな彼らに戻ってほしい。火神くんのようなあの頃の彼らに、」
黒子を今でも縛り付けていて、泣かせるような奴ら。悔しいけど多分、オレよりもはるかにすっげー才能を持っている奴ら。答えは決まっている。
「オレがぶっ倒してやるよ」
「…え?」
「オレがキセキの世代って奴らをぶっ潰してやる」
相手は強ければ強いほど強くなれる。燃えてくる。面白れぇ。
黒子は目を見開いてぽかんとしていたが、やっぱりあのキレイな顔で微笑んだ。うん、やっぱりこの顔が一番好きだな。
「火神くんは…ボクの光だ」
差し込んだ光はあまりにも眩しくて
その光にようやく救われた