※流血表現
ツ、とその真っ白な肌を滑り伝って床に落ちていくその赤色が、とても美しいと思った。
血液の循環を探るようにして
「悪趣味ですね」
テツヤは持ち前のポーカーフェイスを崩すことなく、自身に付いた傷口を舐めた。まだ血が止まる気配はない。
「そうかな」
「そうです」
ふうん。右手に持ったハサミを見た。刃にまだ新しい血が付着している。僕がたった今傷付けたテツヤのものだ。舐めてみると血液特有の鉄分くさい味がした。
「舌が切れますよ」
そっと右手に添えられた相変わらずのの真っ白い手は優しく僕を制していた。
「無防備だね」
また切りつけられてしまうよ。そう言うと、テツヤは首をこてんと傾げた。しかしそれでも僕の右手に触れるテツヤの左手は、確かに僕に熱を伝えていた。
「赤司くんはもうしません」
「どうして」
「赤司くんは優しい人だからです」
今度は僕がきょとんとする方だった。何を言っているのだろう。テツヤは何を分かっているのだろう。
「面白いねテツヤは」
僕に熱を伝えてくれる左手をとって、逆の手、傷がついたテツヤの右手をそっと握った。血は止まっている。
「僕はきっとまた傷をつけるよ」
「いいえ」
「今だって、」
固まっている血がこびりついた傷口に口付けた。このまま噛みついて、傷口を開いてしまってもいい。舌で傷口を抉ってしまってもいい。しかし体はそうしようとは動かなかった。吸い付いて、テツヤの真っ白な手首には血が固まっている傷と、血と同じような赤い充血痕が残った。
「白に赤色は映えるだろう」
やっぱり美しい。白に伝う赤色も、白に散らばる赤色も。テツヤはクスリと笑って、「悪趣味ですね」と呟いた。