突き落とされた。

息が出来ない。苦しい。口を開けばボコボコと、たくさんの水泡が上がって、はじけて、消えていく。

自ら堕ちた。

その暗く冷たく先の見えない深海へ。そのままでいても、先なんて見えやしないから。ボクは逃げた。

光は、見えなくなった。

彼はボクの光ではなくなってしまった。ボクを置いて、遠く遠く、離れてしまった。ボクは存在意義を失った。

暗くて冷たくて寂しくて、何も見えない闇の中。自分の存在する意味はあるのか?居場所はあるのか?自分で自分に問い詰めた答えはノーだった。ボクにあの場所であのまま、存在し続ける価値はなかった。逃げ出した。もっと遠くに。もっともっと深みに。いっそのこと消えてしまえればいいのに。そうすればもうこんな想いはしなくていいでしょう?自ら潜り込んで、深海へと閉じこもる。

眩しかった。

ふと、差し込んだ光が。暗闇に慣れてしまった目には痛々しいほどに眩しくて、温かな光だった。

差し伸べられた。

大きな手で、ボクの手を掴んで、引き上げてしまった。ばしゃあ、ゆっくりゆっくり、眩んだ目をそっと開けて、そこには、


あなたの海へわたしは沈む


「…火神くん」

ああやっと、ボクの世界に一筋の温かい光が差し込んだ。








- ナノ -