火黒←青←黄
「羨ましいと、思ってるんでしょ」
そう問うと彼は、青峰はさも面倒臭そうに、あ?といつもの調子で答えた。いつもの調子で。
「火神っちのことっスよ」
火神という男の名前を出しただけでぴくりと反応する青峰は、素直でないが火神のことを間違いなくライバルとして認めている。自分の持っている力全てを出しても惜しくない相手。
「だから、尚更なんスよね」
信号が赤になった。2人は立ち止まり、目の前を過ぎていく車をぼうっと眺める。
「何の話してんだよ」
わっけ分かんねえ、と吐き捨てる青峰を見て、くすくすと笑みを零す。
「好きだったんでしょ、黒子っちのこと」
黄瀬は前を見ながら呟いた。青峰がこちらを見ていることは分かっていたがそちらを向こうとはしなかった。信号が青になって、再び歩きだす。
「いや、今も好きっていう方が正しいっスかね」
「…分かったような口きいてんじゃねえぞオイ」
「分かるよ」
(いつも君を見てたから。)
黒子のことも、もちろん他のキセキの世代のメンバーのことも尊敬していたが青峰は特別だった。黄瀬にとっても青峰は、黒子がかつて光と称していたような存在だった。そんな彼は黒子のことが好きだった。きっと黒子も、彼のことが好きだった。
「遅すぎたんスよね」
彼も自分も。気付いたのが遅かった。いや、気付いてしまうのが怖かった。だから気付かぬフリをした。本当に大切で、欲しいと思ったものは失ってから気がついた。
「お前は」
「何スか?」
「お前は何か、無くしちまったのか」
きょとん、とする黄瀬に青峰は続ける。
「オレは取られちまったんだな、アイツによ」
思い浮かべるのはきっと、かつての相棒。そしてその隣には、その彼の新たな光として、最愛の人として見つけた彼がいるのだろう。
「そうっスね…」
オレの無くしたものは手に入りそうにないです、と言った黄瀬はただ、青峰に俯いた自分の表情を見せまいと誓った。
きみの声だけ聞こえない
(お願いだから今だけは隣にいさせてください)