※赤司が病んでいます
目を開けると、幾分見慣れた白い天井、白い壁。そして脇にはこれまた見慣れた男がしかめっ面でこちらを見ていた。
「やあ、大輝」
大きな溜め息を吐いて、男はナースコールを押した。
溶けるような生温さのなかで、
「お前マジでもう止めろよ、こういうことするの」
「見舞いに花を持ってきてくれたのか?だが大輝、見舞いに白い花は良くないんだぞ」
「ちっげーよ、バカ」
大輝の手には鈴蘭の花が握られていた。自分は今回、鈴蘭で自殺を謀ろうとしていたようだ。
「また自覚無しか?」
自覚はしている。死にたいと思っているわけでもいないし、この世に絶望しているわけでもいない。しかしこの身体は何処かしら自身を見限っているようだった。ただ単に、死んでしまうということに興味があった。ただそれだけだった。
「テツにぶん殴られんぞ」
「手間をかけるな」
「オレだって今ぶん殴ってやりてぇよ」
「殴らないのか?」
「病人だからな」
「大人になったな大輝」
かつての仲間の内でも一番荒々しい気性だったというのに。
「何年経ったと思ってんだよ。それに」
オレだけじゃねえ。
大輝の言葉がすうっと身体に染み込んでいくようだった。ああ、よく分かっているさ。みんな変わった。真太郎は柔らかく笑うようになったし敦も周りをよく見るようになったし、涼太は人に敬意を払うようになった。テツヤは感情をよく顔に出すようになった。それは間違いなくあの高校3年間での日々が大きく影響しているからだ。僕には出来なかったことだった。
「全く適わないな」
僕はというとあの頃から止まったままだった。踏み出すのが怖いのだ。今までの僕を否定するのがたまらなく怖いのだ。同時に、こんな自分が存在することが許せない。憎い。殺してやりたい。いらない。
「見限る筈だろう」
「違いねぇ」
大輝は手に持っていた鈴蘭を窓の外から容赦なく放り投げた。下の階の人間が吃驚するだろうに。
「でもお前は、オレらの主将だった」
ベッドの横に腰掛けた大輝の背中は更に広くなり、貧弱に細くなってしまった僕の手と対照的に、その大きな手は相変わらず黒かった。
「それだけでいいだろ」
ゆっくりと手を動かし、大輝に顔を寄せるよう促す。何だよと近付いた頭に手を乗せる。そのままくしゃりと少しだけ長くなった髪の毛を掻き回すと、もうガキじゃねえと顔をしかめる大輝の姿が僕の視界で滲んだ。痛くなんてなかった。
「おやすみ。」