くるくるくるくる。
自身の指先で回るボールをぼーっと眺める。その様子をこれまたぼーっと眺めていた黒子が口を開いた。

「地球に見えますね」

はいい?なんだって?
ボールが地球に見えます?

「見えませんか」

見えませんよ。同意を求めるな、目の前のこれはどこからどう見てもバスケットボールだ。すこぶる頭の悪いオレでも速攻分かるよこれは紛れもない普通のバスケットボールである。無表情なコイツは実は面白い。わざとなのか何なのか知らないが、変なことを言うのはもう日常茶飯事だ。

「変なことは言ってませんよ。火神くんの想像力が乏しいだけです」

それで凄い負けず嫌い。何か言ったら言い返してくる、しかも割と辛辣に。こないだ小金井先輩が命名した「まっ黒子」というあだ名が悲しいくらいしっくり来る。変なこと、というか、想像力豊か?って言うのか、流石国語の成績ずば抜けてるっていうか。オレには到底難しい内容のたとえ話をしてくるのだ。現実に起こることなどまず考えようもないたとえ話。

「そう、たとえ話です」

黒子はオレの持っていたボールをひょい、と奪うと両手でしっかり抱え込む。

「ボクが今こうして持っているボールが地球だったり」

ぱ、と手を放す。ボールは重力に従って真っ逆さまに落ちると特有の重量感のある音を出して転がった。

「たった今落ちたせいで、現実、地球が粉々に割れてしまったり」

転がっていくボールを2号が追いかけてじゃれついている。ていうか居たのかよ。

「ボールみたいに落としても割れなかったらいいんですけどね。火神くんの指の先で回っていたり、ボクの手の中で地球の命運がかかっていたりするなんてのは君の言う通り有り得ない話です」

当たり前だ。あってたまるかそんな話。

「そうですか?」

たとえばの話。
バスケットボールが地球だったり。
真夏に雪が降ったり。
南極にサボテンが生えていたり。
シマウマがライオンを食べたり。
現実に起こり得ない話。

「でも現実に起こり得ない、というのも確信のないたとえ話だと思うんです」

カエルが蛇と恋をしたり。
空から蜂蜜が降ってきたり。

「きっと楽しいですよ」

現実に起こることが有り得ないから、それが起こることを想像するのは楽しい。確かにそれはそうだ。想像するだけなら、勝手だからな。

「火神くんがボクを愛してくれるということも、ボクのたとえ話の勝手ですから」

はいはいそうですね。

かみあわないひとたちのはなし。
(用意されなかったハッピーエンドはエンドロールを迎えない)

オレは比較的現実主義なのだ。オレが黒子を愛すること、それは黒子にとっての「もしも」のことで、黒子の中で現実に起こり得ないこと。なんだか勘に障る。柄にもないがオレも現実に起こり得ない「もしも」を想像してみようと思う。想像するだけなら勝手だろう?もし、








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