一度、言ってみたことがある。

「お前さあ、勝つこと怖えーの?」

何を思って言ったわけでもなく、自然に口から出てきた言葉だった。赤司はいつものようにすました顔してたけど多分驚いてた。オレも驚いた。
何処かの青春ドラマ宜しくバスケ大好き少年だったオレは(寒い)、バスケやるのが楽しくて楽しくて仕方無くて、勝つとすげえ嬉しいのに赤司は勝ってもいつも表情を変えない奴で、オレはそれがどうにも気にくわなかった。緑間も紫原もオレの周りは変な奴ばっかりだったけど勝てばそれなりに表情を崩してたから。
勝つことは当然とか息をすることと同じだとか言ってた赤司はオレから見ると色々痛々しくて、繊細で、弱い奴だった。

「青峰は面白いな」

赤司は人形みたいに綺麗に笑った。

「俺は弱いかな」

少し胸が痛かった。

真っ暗で辺りには何にも見えない場所で、赤司は1人突っ立ってて、何してんだよって声かけても赤司には聞こえてなくて。出るためには何が相手でも勝たなきゃいけないんだって誰かが赤司にそう言った。赤司が自分でそう言った。

(何を怖がってんだか、)

「負けることはないだろうけどよ、言い訳作ってやっから」

静かに涙を流している赤司はまさか自分が泣いているとは思ってないんだろうなあ、と思いつつ。「俺は負けないよ」と言った赤司の静かな涙を見た最初で最後のときだった。

人魚だって空くらい翔べるさ

お前も人並みに泣いているんだろうか。
そんなこと、今となっては知る由もないし知る必要もないけど。今のオレだったらあの頃の赤司に何か言ってやることが出来たんだろうか。








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