「非常に脆いものだよ」

そう言った彼は何処か遠くを見ているようだった。彼、赤司征十郎はバスケだけに限らずとも紛れもない天才だ。赤司征十郎の持つその瞳には誰もが屈するしかない。それは勿論、オレも含めて。

「すぐ触れただけで崩れてしまうんだ。大切なものほど、壊れやすくて儚い」

何を考えているんだろう。何を思っているんだろう。天才である赤司征十郎の思考なんて所詮ただの平凡なオレなんかに分かるはずもなかった。ただ、赤司征十郎が今ひどく寂しそうだってことは何となく感じた。彼は待っているのだ。

「失ってしまったよ」

ボロボロと、欠落していく。両手に持っていたそれは突然に、指の間を抜けるようにして一気に堕ちていく。失いたくなくて、慌てて指に力を込めてみても抱き込むようにしてみても、それらはずっとすり抜けていくだけだった。

「僕は間違っていたのだろうか」

柄にもない、オレの知る赤司征十郎とはこういう男ではないはずだ。今彼は確かに必要としている。何が、ってそれはもちろんオレなんかじゃなく、きっと赤司征十郎が執着している彼らなんだろう。でもそれはきっと無理なことだから。「今」はきっと無理だから。ここにいるのがオレでごめんな、赤司。

愚か者は幸福を足蹴にする

愚かなのはオレなのかそれとも、








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