「高尾」

オレを呼ぶ声が、何やら悲しそうで苦しそうで、らしくないなあって苦笑した。

独り善がりのモノフォビア

オレの知る緑間真太郎という男は一言で言えば変人。一言で済まされないからもう少し追加しちゃうと、偏屈。我が儘。ツンデレ。それでいて、ものすごい努力家。
堅っ苦しくて取っ付きにくい性格してるから、先輩(特に宮地先輩や木村先輩)たちとギスギスしちゃうときもある。でも、緑間が誰よりも練習してて、真剣にバスケに向き合っている姿をみんな知っているから、嫌いになれない。無論、オレもその中の1人だ。
それでもオレは独占欲が強いし我が儘だから、緑間にとっての「その他多勢」のなかの1人じゃあ嫌だった。緑間にとっての特別になりたかった。そんなことは無理だと分かってはいるけれど。

「高尾」

緑間は秀徳に馴染んできた。キセキの世代と呼ばれ周りから天才だと呼ばれ、その通り群を抜いている実力、先輩への態度から浮いていたけれど、みんなが緑間を受け入れて試合でのチームプレイも見られるようになってきた。これは少なからずも誠凛と戦ったおかげだと思う。そう、「キセキの世代」の1人、黒子のおかげだ。

「高尾、」

それでもオレが緑間と対等に肩を並べることはきっと、この先でもないんだ。緑間の隣にいることは緑間の特別でなければ許されない。

「高尾っ…分かっているのだろう?オレはお前が、」

オレはずるい人間だ。
とっくに気付いていたんだ、緑間がオレを大切に想っていることくらい。でも気付いていないふりをした。だってオレは緑間の隣にいることを許されない。オレにはあいつらのような、キセキの世代のような強さがないんだ。置いて行かれちゃうのが怖いんだ。緑間が優しいことは分かっている。緑間がオレにそんなことしないっていうのは痛いほど分かっている。でもオレ我が儘だから、色々なものを押し付けすぎていつかきっと緑間を壊してしまう。緑間はオレなんかに束縛されていいような人間じゃあないんだ。緑間は特別だから。だから、

「なあに、真ちゃん」

オレは気付いていないふりをする。

浮き彫りになったのは脆弱な心だった








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