これの続き


波の音と、潮の香り、後ろから聞こえてくる罵声。

「おいコラ黄瀬ェ!待てっつってんだろーが!」

「いやん、私を捕まえて下さいっス!」

「殺すぞ…」

もうすぐ太陽が顔を見せるような時間に無理矢理黄瀬に連れ出され、何故か近場の海岸に来ていた青峰はそれはもう不機嫌だった。

「ちょっと寒いっスねー、明け方はやっぱ夏でも冷えるっス」

「明け方どころかまだ太陽明けてねーだろうが。ったく…」

一体コイツは何がしたいんだ。本気でキレようにも、どうもこんな黄瀬が相手では馬鹿らしくなってくる。何を言ってもヘラヘラするところも、時々ほんの一瞬だけ見せる寂しげな表情も腹立たしい。

「いい加減に…」

「失恋した青峰っちを慰めてあげようかと思って」

は?
思わず口を紡ぐ青峰に、黄瀬は振り返る。風が黄瀬の黄色い髪を撫でたせいで目元が長い前髪に隠れてしまった。
何を言い出すのかと思えばどうやらこの間の、黒子についての、あの話と続いているらしい。
失恋、というか、そう言われればそうなのかもしれないが青峰にあまり実感はなかった。さほどへこんだわけでもないし、黒子とは普通に連絡しあったり出来ている。相手が火神なのがいささか不満だが、黒子が決めたのならそれでいいと素直に思えたりしている。大した心境の変化だ。

「んー、吹っ切れたとか思ってんスか」

「悪いかよ」

「でも青峰っち」

今思えば、黒子のことは好きだったが恋愛的な意味としてかと聞かれればそれに頷くことは出来なかった。黒子のことは好きだ。それが友情を越えているというのは青峰自身も自覚していた。

「(かけがえのない奴、ってのには間違いねえけど)」

それを言うなら幼なじみの桃井だって、他のキセキの世代のメンバーだって同じだ。じゃあ目の前にいる、今日は特に意味の分からない黄瀬は?

「(ああ、コイツは、)」

そのときいきなり頭から冷たい感覚が襲った。我にかえると黄瀬がいつの間にか靴を脱ぎズボンの裾を折って浅瀬に足をつけていた。黄瀬が青峰を見てゲラゲラ笑っている様はいつもの黄瀬と一緒だった。

「お前…いい度胸じゃねえか…」

「隙ありすぎっスよ!」

青峰が黄瀬に向けている感情が何なのか、黄瀬が青峰に向けている感情が何なのか。青峰にはもう自覚出来ていた。でももう少し。もう少しだけ、気付いていないフリをしておこうと思う。散々焦らして、黄瀬の様子を見てやるんだ。そうしてアイツが我慢が出来なくなったら、オレからアイツを抱き締めてやるんだ。

「(オレ超性格悪りぃ)」

「青峰っちー!」

仕返ししてやろうと青峰は自身の履いている靴を脱ぎ捨てた。波の音が大きくなって、同時に声を叫ぶように張り上げて黄瀬が呼ぶ。

「やっぱりさー!」

「あー?」

「アンタには青色が似合うっスよー!」

そう言って笑った黄瀬の髪の毛はやっと昇った太陽に反射して、キラキラと輝いていた。

「(眩しい、な)」


不公平な世界で均等な愛を望む








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