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「#エロ」のBL小説を読む
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che per la prima volta


「最近侑と喧嘩でもしてんの?」
「……なんや治か、」

なんやってなんやねん。そう言いながらわたしに声をかけるのは双子の片割れだった。わたしが話したいのは治じゃないのに。そう言えはしないけれど態度には出てしまう。ため息を吐いた治は、目の前のイスを引いて反対向きに座り、わたしと向かい合った。

「ツムが毎日うるさいねん」
「侑がうるさいのなんていつものことやん」
「笹川、お前めっちゃ侑のことすきやでな?やのになんでそんなツンケンしてんねん、損やで」

周りを見渡して侑がいないことを確認して、治は小声でわたしにそう言う。
そんなん言われんでもわかってんねん。そうため息混じりに治に告げると、彼は眉間に皺を寄せてわたしを見た。

「侑は?今どこおるん」
「北さんに呼び出されてたからたぶんユース合宿の話でもしとんちゃうか」
「さすが侑やなあ」
「ほらそうやって侑のこと引き離してしんどそうな顔で笑うやろお前は。」

対等に扱ったれよ、いつもより少し低い声で治はそう言った。対等なわけないやんけ、そう反論しても治は折れない。なんだかんだで彼は双子の世話を焼くことは嫌ではないのだろう、侑とわたしが小さな喧嘩をした時もよくこうやって間を取り持つことをしてくれていた。

「侑と、1週間以上口きいてもらわれへんの初めてで、どうしたらいいんかわからん」
「笹川はどうしたいねん」
「侑と別れたくない、すきやもん、誰よりも侑のことすき」
「そう言えばええやんって俺は言うてんねん。なんで隠すん。付き合うてるんやから隠さんでええやんか。」

でもさぁ、そう言うわたしの頭を、手元にある教科書をくるくると丸めて治は叩いた。パコンッと綺麗な音が鳴り、それと同時にとなりに座っていた男子が「治めっちゃエエ音鳴らすやん!」と拍手し始めて居た堪れない。

「おい、笹川、今日部活ない日やから俺ん家来い。」
「わたし治と浮気する気ないんやけど」
「アホ言え。俺の部屋入れたるからツムのこと待ち伏せしたらええやんっていう提案や。拗れたまんまアイツが合宿に行ったらメンドイねん、バレーに支障きたすような奴やないけど俺が腹立つ」

わかったな。そう言い残して自分の教室に戻って行った治をわたしはぼんやりと眺めていた。

対等に扱えって言われても、やっぱり侑はキラキラとしているクラスの中心人物には違いない。侑がわたしのことをすきなことは知ってるし、わたしが侑のことをそれ以上にすきなことはわたしが一番わかっている。

やっぱ家行くとかアカンよな、でも会いたいし話したいなぁ、そう思っていたらスマートフォンの画面が明るくなってメッセージの受診を告げた。『宮治:絶対来いよ』『宮治が位置情報を送信しました』ふうっと大きく息を吐いて、来るべき放課後に想いを馳せた。







「よう来たな。上がってええで」
「おじゃましまーす……」

駅前のケーキ屋さんでプリンを人数分買って、宮家に向かった。侑は?と尋ねると、もう少しで帰ってくると思う、そう言ってプリンを冷蔵庫に入れるため治はリビングに向かった。
先に双子の部屋に足を踏み入れると、バレーの賞状やトロフィーが数多く並んでいて、彼らの今までの努力や苦労がこういった形で報われていることを少しだけ羨ましく、誇らしく感じた。

「笹川、俺どっか出かけたるからツム帰って来たらちゃんと仲良くせえよ」
「……え、わたしこの家に放置されるん?大丈夫?」
「お前はそんな悪さ出来るような奴やないやろ。ツムから聞いてる話やとそう思うからな。じゃあな。」

何を侑から聞いてんねん。その言葉を最後まで聞かずに治はドアを閉めてどこかへ行ったようだ。ばたん、と玄関のドアが閉まる音がわたしが1人になってしまったことを知らせてきた。治ほんまにどっか行ったん?そうメッセージを送れば、既読になるや否や意味のわからないスタンプが返されて会話が終了した。

どうしよう、どんな顔してればええん。そう思っていたら、バタバタと大きな足音。まさか、そう思って部屋の入り口を見ると、ドアが勢いよく開いて大きな音をたてた。

「さくら、なんでこんなとこおんねん」
「あっ、侑、!」

眉間に皺を寄せて、聞こえるように舌打ちをする侑は、カバンを放り投げてズカズカとこちらに近づいて来た。

「なんやねんお前まさか初エッチの相手、サムなん?」
「なんでそうなるん、そんなわけないやん!」
「ほんならなんで俺の部屋におんねん」
「治に入れてもらった……」
「何を入れてもろたねんチンコか?」
「げ、下品!ちゃうってば!」

じゃあ何しに来てん。そうイラつきを隠そうともせずに侑は言い放つ。その目をじっと見つめると、彼もわたしをじっと見つめ返してくれた。
ばくばくと鳴る心臓を落ち着けるように、大きく息を吸って、口を開く。

「侑と、仲直りしたくて、治に部屋に入れてもらったんや」

きゅっと口をつぐんでいると、彼の眉がさらに皺を寄せた。

「……なんやねん、ソレ」
「言葉の通りや。侑と喧嘩してたくない。初めてのエッチもほんまはまだ誰ともしてない。嘘ついたねん。」

うそ、そうぽそっと呟いた彼の声は、珍しく弱々しくて、わたしの胸をぎゅっと締め付けた。

「侑はどうせ童貞ちゃうんやろ。そうトモコちゃんに言われたから、まだわたしとしてへんなんてよう言わんかった……。」
「……お前、」
「エッチが痛いかどうかもなんも知らん、だってわたし侑しか知らんもん。ずっとずっと侑しかすきやなかったし、ほかの人なんて考えたこともなかっ…!」

頭の中がぐらぐらと回るようだ。何を言いたいのか、何を言うべきなのかもうわからなくなっていた。自分の気持ちに厳重にかけていた鍵が、鎖が、崩壊していく瞬間。そんな時に侑は容赦なくわたしの頬をその大きな頼もしい手で挟むようにして、目線を逸らせないようにしてくる。侑の手からどんどん熱が伝わってきて、わたしの顔は熱くてたまらない。

「……さくら、お前ほんまに俺のことすきなんか」
「…何回も、言わせんな」
「今まで言わんかったやんけ、言えや。俺ばっかお前のことすきや思ってた、腹立つ。こんなにさくらのことすきになるとか思ってへんかったわ。」

力が込められて頬が潰れてしまいそう。侑はずっと眉間の皺が取れなくて苦しそうな表情をしているけれど、わたしだって苦しい。侑のすきを受け止めることが、わたしのすきを伝えることが、苦しい。

「わたしやってそうや……でも侑はキラキラしててモテる人やから、わたしなんかでええんかなって……」
「っふざけんなや!!」

びくり、身体が震えた。侑が目を見開いて大声で叫んで、その勢いで唇を塞いできた。
乱暴そうに見えて、優しくて、熱くて、柔らかく触れた。食べちゃうみたいに唇を軽く噛まれて、鼻から息が漏れた。侑の刈り上げられた黒い髪が目の前にあって、揺れる金髪が泣きたくなるくらいに愛おしく感じた。

「俺が自分からすきやって言うたのも、付き合うてんのも、キスも、なにもかもお前が初めてや!!俺のスキを勝手にお前が否定すんなや!!」

キス嫌いやのにすまんな、そう言われて、心臓が突き刺された気がした。すきを否定するな。そう言われるまで気づかなかった、わたしは侑の好意もわたし自身の好意も全てを否定したかった。こわかった。
わたしほんまはどうしたいん?自身に問うけれど、答えはわかりきっているはずだ。

「……キスは、ほんまは、いやじゃ、ない」

目頭がじわじわと熱くなって、目の前がぼやけてきた。瞬きすると同時に頬に流れていく涙が、次々と溢れて止まらない。

「…さくら、」
「キス、されたら、侑のこと、もっとすきになるやん……っ、」
「…さくらっ、泣くなや……!」

ぼろぼろと泣くわたしの頬を制服の袖で拭ってくれる侑は、歯をくいしばるようにわたしを見ていた。

「泣かせへん言うたのに、泣かせてもうた…」

ごしごしと擦られて頬が痛い。けれど涙が全く止まらなくて、侑の手も止まらないから頬がどんどん赤くなる。

「……あつむ、のことが、すきすぎて、泣いてんねん…!」

頬に添えられる侑の手に、自分の手を添えた。ぼやけた視界の中で彼の目を見つめてやると、侑は眉を下げながら歯をくいしばる顔のままわたしを見つめ返す。なんやねんお前、そう呟いた侑の声がわたしの耳を通り抜ける。やっと、やっと侑にちゃんと言えた。涙で濡れた制服の袖がひんやりとして気持ちいい。侑、そう呼べば彼は大きく深呼吸をして、わたしの身体を引き寄せた。

「俺のことすきやないと思ってたのに。」
「侑のこと、すき。ずっと、ずっとすきやった。告白してくれた日泣いてたんも、侑に彼女できたって噂、聞いてしもて、」

背中に回された腕にぎゅっと力が込められて、わたしの鼻先が厚い胸板に当たる。

「侑が、周りの子らにわたしなんか女やないって言ってたのも、知ってた…」
「照れ隠して知らんのかお前は」
「知ってるけど、でも、侑がわたしのことすきとか、一時の気の迷いや思ってんもん……」

悪かったな、そう言いながらわたしの髪を梳かすように指をするすると通す侑。彼の胸元のシャツをきゅっと掴むと、侑の身体がぴくりと揺れた。

「侑、わたしやっぱり侑が、すき、やから、侑やないといややから…、もう嘘つかんって約束するからさぁ……!」
「もうええわ」

肩に手を置かれて、少しの力を込めて身体を引き離された。侑と視線が絡み合う、彼の少し赤らんだ頬や慈しみのこもった表情に心臓が射抜かれてしまう。

「さくら、俺のことめっちゃすきやねんな」

口角を少しずつ上げながらそう問う侑に、そう言うてるやん、そんな可愛くない返答をしてしまっても彼はさらに微笑んでくれた。

「なあさくら」
「……なに、」

頬をするすると撫でられて、涙の跡をなぞられる。もう止まってしまった涙を拭うように涙袋を親指で撫でた侑、その綺麗な顔がゆっくり近づいてきて、ああキスされる、そう思った時にはもう唇が触れていた。

「……俺のことすきになるん、怖がんな」
「…そのセリフむかつく」
「可愛げない奴やなあお前は」
「そんなん侑が一番よお知ってることやん」

そうやけどな、笑いながらそう言った侑は、わたしの手を引いて2段ベッドの上に誘導してきた。
ざわざわと胸が揺れる。嫌なわけじゃないけれど、ここから先はわたしの知らない世界が待ってる。そう思うと足と手が震えてうまく歩けない。

「……遊び人に見えるんかもわからんけど、俺、童貞やから上手くいかんかったらすまんな」
「え……?」
「お前のこと、今から食うわ」

わたしがベッドに到達した瞬間、そう言って笑いながら押し倒してきた侑の表情が、愛おしくて、やらしくて、でもやっぱりかっこよく見えてしまって、悔しくなった。


「…あつむ、すき」
「俺もすきや」

そう言いながらわたしを見下ろす彼の視線に胸が熱くなる。
侑は頬を緩ませながら、制服の中に手を忍ばせてきた。お腹に触れる骨ばった硬い手に、ぞわぞわとする。

「あっつむ……」
「……脱がすで」
「えっ…いや、っ……」
「いやいや言うのは今だけはもう一切聞きませーん。さくらは天邪鬼やてわかったからなぁ」
「あほ!そんなん言わんとって…!」

ブラウスのボタンを1つずつ外していく侑の手先から目が離せない。慣れた手つきで外されていく。あっという間に脱がされてしまったそれはポイと放られてしまった。

「……あれ、外れへん」
「…あ、わたし、外す、」

背中に入れられた手がゴソゴソと弄ってきて、それが逆にこそばゆい。自ら背中のホックに手をかけてパチンと外すと、胸の締め付けが緩んだ。

「隠さんとって」
「…恥ずかしいから、いや」
「せやな、嫌やな、ハイハイ」
「あっ…!」

ブラが目の前でふらふらと揺れる。侑が手に握ったそれをどこかへ放り投げた。
スカートも脱がされて、わたしだけがどんどん身包みを剥がされていくことに恥ずかしさが消えない。侑はなんでそんなに平然と進めていくん。待って侑。そう思いながら彼のシャツのボタンに手をかけた。目を丸くしながら驚いた彼を無視して、そのまま手を進めていくと、鍛えられた身体が露わになって、思わず目を逸らした。

「自分から脱がせといて目ぇ逸らすなや」
「……侑、かっこいいなぁ」
「…言葉のキャッチボールも出来ひんのか」
「だって……ひゃ、あ、」

彼の手がわたしの胸を覆う。片手では頬を撫でてくれて、視線をぱちりと合わせたまま。

「…あっ、つむ、」
「かわいい」

軽くリップ音を立てながら、唇に、頬に、瞼に、額に、首筋に、次々とキスが落とされる。ぞわぞわとした感覚が背筋を通り抜けていく。嫌じゃない感覚。

「……侑、っう、」

胸の先端を口に含まれてしまえば、自分でも聞いたことのない声が漏れた。恥ずかしくて、思わず口を塞いで耐える。

「…ん、ん……」
「はぁ、さくら、下触るで」
「言わんとっ…やあっ…、ぁっ、ん」

ショーツの上からするりと撫でられると、身体がびくりと跳ねた。びりびりと電流のような刺激が足先に向かって走っていく。

「ちゃんと濡れるやん」
「い、やっ…あつむっ……」
「かわええなあ…」
「あっ、…あっん、や、っ……!」

もう邪魔やな、そう言われてするりと足から抜かれた下着が、呆気なくベッドに放られた。
誰も触れたことのないそこに侑の手が触れて、水音とともに刺激が与えられて背筋がぞわっとした。

「っや!あっ…!」
「ココ?」
「そこ、む、りぃ…あっ…!」
「ココがええんやな」

敏感な部分を何度も何度も触られてしまえば身体がどんどん震えていく。こんな感覚知らない。侑が、わたしを見つめながら誰も知らないところに触れているだけでも堪らないのに、全身を駆け巡る快感が頭をおかしくする。

「俺のでっかいチンコ挿れなアカンからなあ、さくらのことちゃんと気持ちよくさせたらんなアカン」
「…ちょっ、や、あっ……んん、待って、あつむっ……!」
「指挿れんで、痛かったら言うて」
「んんっ、あ…!」

埋め込まれた指が、異物感を伝えてくる。よくわからないけれど侑の指が入ってることだけはわかる。

「痛くないか?」
「……しらん、っ……!んん、」

恥ずかしくて、侑の肩を押してやめてと伝えるけれども、ふっと微笑んだまま指を動かすのをやめてはくれない。

「さくら、ちゃんと慣らさんと俺のん入らんやろ、初めてやったら痛いとか言うし、痛い思いさせたない」
「あつっむっ…!」
「すきや…俺以外の男にこんなとこ見せんなよ、」
「侑もっ、侑もやからな…!わたし以外、あかんで……!」

わかっとるわ、そう言って笑った侑の表情が色っぽくて涙が出そうになった。

そのまましばらく指で慣らされて、胸を弄られて、なんとも言いがたい快感がわたしを襲い続ける。止まない愛撫に耐えられなくて顔を逸らせば、それを阻止するかのようにキスが降ってくる。絡め合う舌が熱くて、侑から漏れる息がやらしくて、心臓が痛い。

「あっ…、やっ、ん、んん、」
「さくら、もうええ?」
「い、やっ……!」
「ほんまさくらは嫌しか言わんなあ…素直になれや…!」

指が弱いところを擦ったのか、びりびりと脳天から足先まで快感が通り抜けた。情け無い声が漏れ、思わず侑の首に回していた腕をぎゅうっと抱き寄せる。

「あっ、あつむっ、!」
「ちょっさくら、こら!」
「ん、あっ……!!」

大きく息を吐くと、涙がこぼれた。身体が重くなって、気だるさが襲う。

「可愛いさくらちゃーん、抱きつくとかそんなことされたら、侑くんそろそろ限界やねんけど」
「……ん、ええよ……」

抱きつく腕を緩めて、侑の頬に手を添えた。切なそうな表情の侑にまた胸が掴まれて、そっと手を引き寄せるようにキスをした。

「準備するから待っとけ」

侑はそう言ってズボンに手をかけた。直視できなくて顔を横に向けていても、聴覚だけは鋭くなってしまって、布の擦れる音がやけにリアルに聞こえてしまう。
ピッと何かを破る音が聞こえた時、侑と一線を越えるのだという事実を再認識した。

「痛かったら、ごめん」
「……ん、がんばる、から、」

侑のそれが、わたしに入ってくる。異物感が伝わってきて、指とは比べ物にならない違和感が襲いかかる。
ゆっくり、息を吐きながら侑を受け入れていく。侑の眉がきゅっと寄る様子が見えて愛おしくなった。

「痛ない?」
「……ん、いけ、る」

よかった、ふっと微笑みながらそう侑が言う。指が絡められてきゅうっと握られれば、そこから心臓の音が伝わってしまいそうだと思った。

「……い、った……!」
「やっぱ痛いか……ごめんな、我慢してな……」
「ん、……いけ、る……」

侑のモノが大きいのかどうかなんて知らないし、この痛みがどの程度の痛みなのかもわからない。けれど、侑がこんなに愛おしさを込めた目でわたしを見ていて、わたしだけに触れていて、わたしのことが欲しいと思ってて、今、こうして繋がっているという事実が、嬉しくて仕方ない。

「……侑、すきやぁ…」
「ん、もう全部入るからな。ようがんばったな……!」

繋いだ手にさらに力を込めれば、侑の口角がきゅっと上がった。

「さくら、ありがとうな。愛してる」
「……あつむ、」

ちゅうして、そう言うだけで精一杯になってしまったわたしの気持ちは、彼に伝わっただろうか。たくさんの感謝と、愛を込めて、侑のキスを受け止めた。



そのあとはあまり覚えていないけれど、ひたすらに腰を振る侑を必死に受け入れて、痛みに紛れた快感に溺れさせられた。うわごとのように名前を何度も呼んだ。その度に侑は嬉しそうに微笑むから、またわたしは名前を呼んでしまう。
初めてのセックスは痛かった。けれど侑が相手だったから、だいすきな人だったから、それ以上にしあわせだった。

「あつむ、あいしてる…っ」
「さくらっ、すまん、イク……!」

ゴム越しに侑の愛を感じていたところで、わたしの瞼が重くなった。頬に侑の唇が触れるのを感じながら眠りについた。



▼△▼




「……ん、」
「あ、起きた?」

ぼんやりとした視界の中、周りを見渡す。目の前には侑の顔があって、先程までの情事が鮮明に蘇った。

「……あっ、わたし、侑と……!」

顔に全身の熱が集まってしまう。頭の下には侑のたくましい二の腕があって、素肌のまま抱き合う今の状況を理解した途端、心臓が爆発した。

「せやで〜。可愛かったわぁ。気持ちよかった?」
「わっ、わからん…!初めてやもん、知らん!」
「俺はめっちゃ良かったけどな〜。そっかわからんかったかぁ〜。」

恥ずかしげもなくそう言ってのける侑に、やわやわと頭を撫でられる。

「……侑、すき。」
「なんやねん、めっちゃ素直やん……」
「もう言うてしもたもん…」
「もっと俺のことすきになっても後悔せえへんようにするからな、やからもっと言うて、俺も言うから」
「……恥ずかしい人やわぁ」
「そんな俺がエエくせに。」

はいはいそうやな、そう言って侑の背中に手を回して抱きついた。ぎゅっと力を込めて胸板に頬をすり寄せると、侑も抱きしめ返してくれた。素直に言ってしまうと気持ちが楽になって、解き放たれた気分だ。こんなにも、侑への気持ちが素直に行動に移せるだなんて。

「なあもう一回しよ言うたら怒る?」
「…え、わたしめっちゃ身体重たいんやけど……」
「なあ、頼むから。な?」

抱きしめる力を強くして侑はそう言った。本当はもう嫌だけれど、そうやって求めてくれる侑が愛おしくて、しゃあないなあ、そう言おうと口を開いた時だった。


「おいツム、笹川まだおるんか?もうすぐ母さん帰ってくんぞー」
「サム!?なんで今帰ってくんねん!」
「……ハァ?」

部屋のドアが開くと同時に聞こえた声は、治のものだった。反射的に布団を被ったわたしはおそらく治からは見えていないだろう。

「……お前ら、人の家で盛んなや」
「俺の家や!出て行けサム!もう一回出来そうやったのに邪魔すんなや!」
「喧しいねん、とりあえず服着ろや。」

治が部屋から出て行ったことを確認して、二人で急いで制服を着なおした。侑はとても不服そうだったけれど、治にバレた事実で心臓が痛くなったわたしはそれどころではなかった。明日から治にどんな顔をして会えば良いのだろうか。

「さくら、今度からはサムが来おへん場所でヤろな」
「……そんな身体目的みたいな言い方、嫌や」
「すきな女やから抱きたいんや、悪いか!今まで何回お前で抜いたと思ってんねん。やっとエッチできるようになったのに…」

侑の頭をパシンと音が鳴る程度に叩いて、アホ!と叫んだ。誰がアホやねん!そう言う侑を無視して部屋から出て、リビングにいる治にお邪魔しましたとだけ声をかけた。

「プリンはツムの分も俺が食う。それで何も知らんことにしたる。」

せやから、今回だけは大目に見たるわ。そう言う治に、感謝せざるを得ない。エッチしていたことがばれてしまったのは恥ずかしいけれど、場所が場所だけに、治には本当に申し訳ないことをしたと思う。

「治、ほんまにありがとう。」
「さくら!お前なにまたサムとイチャついとんじゃ!しばく!サムにさくらはやらん!」

ばたばたとリビングまで追いかけてきた侑に、治は大きくため息をついた。愛されてるなあ、わたし。そう実感して思わず笑みがこぼれる。それを見た侑が何わろてんねん、と言いながらキレそうだったので、そそくさと玄関に向かう。靴を履いてドアに手をかけたところで、もう一度侑を見た。

「心配せんでも、わたしは侑のモンやよ」

じゃあまた明日な、そう言い残して宮家の玄関から足を踏み出した。

「送るから待てや!!」

そう言いながら慌てて外に飛び出す侑が、愛おしくてたまらない。

侑、今まで怖がってて、ごめんね。だいすき。そう直接言ってはあげなかったけれど、その気持ちをたくさん込めて彼の手を握った。

「初めての彼氏が侑で良かった」

当たり前やろ、自慢げにそうわたしに言う侑。この人が、わたしの、だいすきで大切な人。



椿様より、『侑くんとはじめてのお話』でした。初めてのデート、喧嘩、エッチでもなんでも良いとのことだったので、たくさんの『初めて』を詰め込んでしまいました。
初めての彼氏との初めての大きな喧嘩、そして初めての仲直り、エッチ、ぜーんぶ詰め込んでしまったんですが、宮侑はちゃんと宮侑になっていますでしょうか…?
お気に召していただけたら幸いです。ミャーツム初めて書きましたが、たのしかったです(笑)
リクエスト本当にありがとうございました!