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「うわ、見事に潰れてるなぁ。」


大地と清水と旭は、俺が中島を担いで席に戻ったことに多少は驚いたが事実をすぐ受け入れてくれた。足元がふらふらする中島を抱えて歩くときに腰回りに手を回すと、思っていたより細くて。あぁ、こんなところからも女の子らしさを感じてしまうんだなあと、笑ってしまう。
谷地がよろしくおねがいします!!とだけ言って元の席に戻って行ったが、谷地は大丈夫なのだろうか。なんだかんだで今元気だってことはそこまで気にかけてやる必要は無さそうだけど。付き合いもあるだろうし、うまくやれよ、と心の中で呟いて外に出る用意をした。

勘定を済ませて居酒屋の外に出ると、4月のひんやりとした風が頬を掠めていく。ほくほくと酔いで火照った体には心地よい。
中島を背負って足を進めていく。烏野同期とはよくこうやって集まっていたけれど、その中に中島がいることが少しだけ不思議だ。


「で、菅原。春乃ちゃんどうするの。」
「うーん…清水の家に連れて行きたいけど実家暮らしだしなあ。ここからちょっと距離もあるべ?」
「スガの家連れて行けよ、ここから一番近いだろ?」
「はぁ!?!?!?」


大地の突拍子もない発言に思わず大きな声が出た。全く考えてもいなかったことを言われた俺の脳内は軽くパニックに陥る。当たり前だ。
お酒にやられてぐったりとした中島は会話の内容まで聞き取れていない様子で、ずっと何か意味のない言葉を唸っている。ふう、と息を吐いてもう一度ゆっくりと先ほどの大地の言葉を頭の中で何度も反芻した。大地と目を合わせるとニヤリと口角を上げながら話し出した。

「悪いが俺の家はここから遠いし、旭は彼女がいるんだから家に女の子を連れて行けないだろ。後で揉めても困るしな」
「ごめん、スガ」
「いやいやいや、そうじゃなくて!マズイだろ!?いくら後輩でも女の子を泊めるのは……おーい、中島!家どこなんだよ送るから!!」

俺の家に連れて行くよりも、本人の家を聞き出したほうが得策だ!と思ったものの、軽く叩いてみたり揺すってみたりしても彼女は家の場所を言う気配は一向にない。うう、きもちわるい、と酔っ払いの典型のようなセリフを吐くので精一杯なようだ。

「菅原の家がいちばん良いんじゃないかな」
「清水まで!?」
「万が一なことがあったら流石に怒るけど、菅原なら大丈夫でしょ。春乃ちゃんも菅原のことは信頼してるだろうから大丈夫だと思う。」

メガネの奥の瞳がギラッと殺意を映し出した気がして、一気にさあっと血の気が引く。けれど、信頼されていると他者から言われることに悪い気はしない。菅原の家なら春乃ちゃんも大丈夫、という清水の何の根拠もない一言が、覚めかけた酔いを引き戻した。少しだけふわふわとした気分だ。

とりあえず俺の家に向かわざるを得ない状況になってしまったため、5人で下宿先に向かっていた。ひんやりとした空気が心地いい反面、背中に乗った温もりがじわりじわりと身体に広がってきて、今ここに彼女がいるということを突きつけてくる。女の子って、軽いんだなぁ。首に巻きつけるように回された手が柔らかくて、脚も細いのに俺たちみたいにガシっとした筋肉のついた脚じゃない。女の子だ。

「俺さ、すきな子おんぶしてるってすごいシチュエーションだべ?」
「良かったなあスガ。役得じゃないか。」

大地がそう言いながら中島の頬をつつくと、うえっ澤村先輩だ…怒られる…と呟くもんだから俺達は思わず笑ってしまう。

「こりゃまたひどく酔ってるなあ、中島に俺はこんな風に思われてたのか…。どうしたらこんなに酔うんだよ、未成年なのに」
「…春乃ちゃん、馬鹿なことをする子じゃないから潰れるような飲み方するような子じゃないと思うんだけどね」
「サークルの勧誘で飲まされたって言ってたなあ。どこのどいつが飲ませたんだよ…今なら俺そいつになんでも出来そう」

初対面の人に簡単に心を許すような人ではなかったはず。しかも未成年なのにお酒を飲むようなタイプでもなかったと思う。そう思えば思うほど余計に彼女を潰した人に怒りを覚えるけど、時々聞こえる「すがさん、」といった声が昂る気持ちを宥めてくれる。

「……うう、」
「どうした、中島」
「…あたま、いたい。もう、やだぁ、」
「もう着くからあとちょっと我慢して。ゆっくり休もうな。」
「すが、さん…に、こんなとこ、見せたく、な…かったぁ…。」

ぐすぐすと啜り泣く声が背中から聞こえてくる。清水が驚いた顔をして中島の頭を撫でている。先輩として、助けてやれることは十分にしてやりたい。だから泣かないでほしいけれど、高校の時の先輩にこんな姿見られるのは誰だって嫌だよなあ。

しばらく歩くとアパートが見えた。ここで大地達と別れるかどうかを渋っていたら何も言わずに清水が階段を登っていった。

「菅原、上の階だよね?とりあえず私も上がらせて。一人じゃ介抱できないでしょう。」
「ん、頼むわ。」

清水と大地、旭に手伝ってもらいながら彼女を俺の家に入れた。吐きそうと言った彼女をトイレに連れていき「ここは私が面倒見るから男子はあっち行って」と言う清水に任せてリビングに3人で座った。いつも過ごしている部屋なのにいつもと違う雰囲気が漂っていて、すこし落ち着かない。

「大地、旭。どうしよう。」
「なにが?」
「スガさんは嫌だって中島は言ったよな?なのにずっとスガさんって呼び続けてんだよ。なんなんだよ…どっちだろう、わかんないなぁ…!酔ってるとはいえ、かわいいなって思っちゃうんだよ、はあ、もう……」
「は?」

顔に手を当てて机に肘をつけば俺の一人反省会が始まる。
泣くほど嫌だったのだろうか。けど、俺の名前を呼ぶってことはそうじゃないかもしれない。中島はこのことを覚えているんだろうか、考える力は少しだけでも残っていたんだろうか。このまま俺の家に泊まらせたとして、もし明日の朝起きた時に拒絶を示されたらこれから俺はどうしたらいいんだろうか。
考えても答えが出ないようなことをぐるぐると考えてしまう。

「菅原、なんか服貸して。」
「あ、清水ありがとう。どうした?」
「汚れたから、春乃ちゃん着替えさせたいの。」

タンスの中を漁って、適当なTシャツとハーフパンツを渡した。部活の時に着ていたようなものだけれど、彼女が嫌がりませんように。

「春乃ちゃんが菅原のこと嫌ってるなんて馬鹿な想像しないであげてね。」

しばらくしてから中島の肩を担いでトイレから戻ってきた。清水は珍しく微笑んでいて、久しぶりに手を焼いた後輩が可愛いと表現しているようだ。ベッド借りてもいい?と言いながら目の前のベッドに中島を寝かせていた。中島の顔色は少しだけ良くなっている気がした。ふう、と大きく息を吐くと、思っていたより緊張していたことに気づいた。俺、緊張してたのか。

「中島は現役の頃から、スガに懐いてたよな」
「大地もそう思ってたのか。俺も思ってたよ。俺と話す時よりスガと話す時のほうが表情がコロコロと変わってたよな」
「なんだよそれ…!」

大地と旭が微笑みながらそんなことを言うから、引き締めようとしても頬が緩んでしまう。自惚れるな、俺。みんながそう思っていたからと言って本当にそうだとは限らない。中島だって、高校時代に彼氏がいたかもしれないし今もいるかもしれない。2年近くまともに会っていなかったのだ。試合を見に行ったり差し入れしたりはしていたけれど、なかなかゆっくり話す機会もなくて、今の中島のことを俺は何も知らない。

「中島って彼氏とか居ないのかなぁ。居たらこの状況まずいよな?」
「いないよ。安心して菅原」
「なんで清水は知ってんだよ……」
「春乃ちゃんと仁花ちゃんとのグループラインはたまに動くからね」

胸がふわりと温かくなった気がした。今、中島の隣に並ぶ男はいないと知っただけで、ここまで嬉しくなるものなんだな。

「……俺、ちょっと頑張ってみてもいいのかな」
「スガはそろそろ自分に素直になっても良いと思うぞ、なんで高校の時からそんなにすきなのに言わなかったんだよ」

大地がケラケラと笑いながらそう言う。俺は告白しなかったちょっと情けない理由を3人に話すと、少し辛そうな顔をしながら話を聞いてくれた。ずっと隠し続けてきたつもりだった思いを、自分の口で形にしたのは初めての出来事で、改めてじわりと言葉が熱を持ち俺の心に宿っていったのだった。

「春乃ちゃん、菅原にすごく愛されてるよ。」

清水が中島の頬をつつく。ふにふにとされるがままなのに全く起きる気配が無くて、少し安心した。

「……す、がさん……」
「え……?」

中島の口から出たのは、間違いなく俺の名前だった。大地がニヤニヤしながら俺の背中を叩く。「嫌われてるヤツの名前寝言で呼ばねえだろ!スガ、頑張れよ。」ああもう、俺本当にこの子のこと、すきだなぁ。