それからルナは一人で行動した。三人は謝ってきたが、「でもセブルスを悪者だと思ってるんでしょう?」と言えば無言になった。ルナが譲れないように、三人もそこは譲れないようだった。
 クリスマス休暇はセブルスと一緒にスピナーズ・エンドに帰った。帰った途端、セブルスはルナの眼鏡をそっと外した。
「私と二人きりでいるときは眼鏡を外せ」
「どうして?」
「……私が君の顔を忘れそうになるからだ」
「この眼鏡、顔がぼやける魔法がかかってるんでしょう? 会う人会う人、みんな私の顔をじっと見てくるわ。なんでそんな眼鏡をかけさせてるの?」
「……理由は言えんが、この眼鏡はお前を守る物だ。学校にいるときはかけろ」
「……変なの。セブルス、私がホグワーツに入ってから何か変よ。急に抱きしめてきたり……」
 セブルスは応えず、脱いだマントを掛けソファに座った。ルナはまだまだ言いたいことがあったため、その隣に座る。
「ハリーのことはわかったとして、グリフィンドール生をいびるのはセブルスがスリザリンの寮監だからなの? みんな、セブルスのこと陰険教師って言ってるわ。セブルスはそれでいいの?」
「…………」
「セブルス」
 ルナは彼に向き直った。これだけは聞いておきたかった。
「……ハリーの箒に呪いをかけたりしてないでしょう?」
 ああ、とセブルスは短く答えた。ルナはそれだけで十分だった。セブルスに寄り添い、その腕に自分の腕を絡める。手を出せばセブルスは握ってくれた。あたたかくて大きな骨張った手。セブルスの体温に触れるだけで、どうしてこんなに安心するのだろう。例えセブルスがホグワーツで嫌われていようが、悪者にされていようが、ルナは構わなかった。セブルスがそばにいてさえくれれば、それでいいと思えた。
 新学期が始まっても、ルナは一人で授業を受け、昼食を食べ、眠りに就いた。たまにハーマイオニーが話しかけてきたけれど、ルナはそっけない態度を貫いた。セブルスがハリーを殺そうとしたと思っている人とは、関わりたくなかった。とはいえ、新学期最初のグリフィンドール対ハッフルパフの試合には興味があり、ルナはロンたちとは離れたところに座った。試合はセブルスが審判をし、観客席にはダンブルドアもいた。きっとハリーが殺されそうになったから、セブルスが審判をして、ダンブルドアも見守ることにしたのだろう。結果は、ハリーがホグワーツの歴史上最速なのではないかと思うほど速くスニッチを見つけ、グリフィンドールが勝った。ルナは思わず意気揚々とスニッチを掲げるハリーに見とれた。彼の箒を操る正確性と、その速さといったら。肩を軽く叩かれ、はっとする。ディーンが困ったように笑っていた。
「ルナ、そろそろ帰らないと」
 周りを見ると皆席を降り始めている。ルナは謝り、階段を下りた。
 試合から二週間が経ったところで、グリフィンドールの寮の得点が一五〇点減っていた。皆大広間のそばの砂時計に集まり、ショックを受けていた。噂では、ハリーが何人かの一年生――ハーマイオニーとネビル――と一緒に寮の得点を減らしたと言うことだった。
 ルナはきっとハグリッドか三頭犬関係のことだと想像した。周りと同じようにハリーを嫌ったり、残念がったりはしなかった。どこの寮が一番になろうと、ルナはあまり気にしない。しかしハリーたちは堪えたらしく、授業でハーマイオニーは手を上げなくなったし、談話室に三人の姿はなくなった。ルナは気の毒に思ったものの、話しかけず試験の勉強に没頭した。もし試験の結果が悪ければ、セブルスはきっと自分に失望する。三人を心配する暇はなかった。
 学期末の試験を終えたルナは、手応えを感じていた。これならセブルスも満足してくれるだろう。特に魔法薬学は力を入れて勉強していたため、満点に近いと確信していた。ルナは夕食後、寮のベッドに倒れ込んだ。安心したからか、どっと疲労が襲ってきた。もう寝てしまおう。ルナは目を閉じた。
 翌朝、談話室に行くと皆何かの話で盛り上がっていた。その中心にいるのがハーマイオニーとロンだった。「何かあったの?」と近くにいたネビルに尋ねると、彼は頬を紅潮させながら言った。
「ハリーたちが、盗人から何かを守ったんだ!」
 三頭犬が守っていたものか。ルナはピンと来た。それにしても、ハーマイオニーが寮の点数を減らした時以降、誰も彼女に話しかけなかったのに、皆手のひら返しが上手だ。
「……ハリーは?」
「ハリーは医務室にいるよ。ずっと眠ってるみたい」
「そうなんだ」
 ルナは一瞬見舞いに行こうかと思ったが、ずっと彼らと離れていたため、やめた。
 ハリーが目覚めたと聞いたのは、その三日後だった。学年度末のパーティーには姿を現し、皆彼を見ようと立ち上がった。しかしすぐにダンブルドアが現れ、静かになった。
「また一年が過ぎた! なんという一年だったろう! 君たちの頭も以前と比べて少しは何かが詰まっていればいいが……新学期を迎える前に、きれいさっぱり空っぽになる夏休みがやってくる……。それではここで寮対抗杯の表彰を行うことにする。四位グリフィンドール、三一二点。三位ハッフルパフ三五二点。レイブンクローは四二六点、そしてスリザリン四七二点」
 スリザリンのテーブルから、嵐のような歓声と足を踏み鳴らす音が起こった。セブルスが満足気な表情を浮かべているのが見えた。
「よしよし、スリザリン、よくやった。しかしつい最近の出来事も加算しなくてはならないじゃろう」
 部屋全体が静まり返った。
 ダンブルドアはロンに五〇点、ハーマイオニーに五〇点、そしてハリーに六〇点、ネビルに一〇点を与えた。大きな歓声がグリフィンドールのテーブルから湧き上がった。セブルスが見た事のないようなひどい作り笑いでマクゴナガル先生と握手していた。
 寮に帰ってもパーティーは続いた。ルナは喜んでいないわけではなかったが、ハリーたちとは気まずく思っていたため女子寮に行こうとした。しかし、後ろから呼びかけられた。
「ルナ!」
 パーティーの中心にいたハリー、ロン、ハーマイオニーが立っていた。
「……今までごめん。君のお父さんを誤解してたよ」
「謝って済むものじゃないけど、本当に悪かったよ」
「ルナが良ければ、また私たちと友達になって欲しいわ」
 三人は緊張した顔をしていた。ルナは彼らを安心させるために微笑んだ。
「……いいよ、許す」
「本当に?」
「うん、セブルスが悪い人じゃないってわかってくれたならそれでいいよ」
 三人は安堵を浮かべた。ハリーが手を伸ばしてルナの手を握った。
「……ルナも一緒に楽しまないかい?」
 ルナは頷いた。手を引かれて皆のところに連れていかれる。ルナは自分の手が汗ばんでいないか不安に思ったが、それ以上に自分が喜んでいることに気づいた。ハリーたちとまた友達になれたことは、グリフィンドールが寮杯を獲得したことよりも、嬉しい事だった。
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